2009年7月号

独慎抄

ウイルスは自然を征服した者を攻撃する
ウイルスの側から人間を捉えてみると…
 京都大学ウイルス研究所の所長を務めた畑中正一博士は、「生命とは自己の遺伝情報を次の時空に伝える営みである。その意味では、すべてのウイルスは生命を持っている。ウイルスが生命の始まりを今に伝えているのかもしれない」と述べている。そのウイルスは、自らの代謝を持たないため、宿主動物に感染して初めて殖えることができる。自然宿主には攻撃しないウイルスが、新しい宿主、つまり「自然を征服した」人間には攻撃を仕掛けてくる。この意味するところは何か。

 

【特集】
『エマージングウイルスからの

警告』

【特別対談】
日本の資源は学問にある!?―ノーベル物理学賞受賞者の
「基礎学問による立国論」
●物理学者・京都産業大学教授 益川敏英
●本誌主筆 井原甲二
人材危機、教育危機に警鐘を鳴らす


 ノーベル賞を受賞した益川敏英博士の理論が実証されたのは、理論の提唱から30年以上経ってからのこと。世界から集められた莫大な費用と、それによって作られた実験装置の誕生によって、この世に物質が存在する理由が明らかにされたのである。しかも、この実証結果が私たちの生活の中に具体的なかたちとして応用されていくのは、今後どれほどの時間を要するのか分からない。このように基礎科学・基礎学問というものは、迂遠に思えるほどの時間と労力を要して花開く。“人間力”もそうではないのか。促成栽培で人は育つのか。教育危機の最大の要因はそこにあるのではないか。スピードと結果を重視する現代の風潮に警鐘を鳴らす基礎科学のノーベル賞受賞であったのかもしれない。

 

©北村雄一

[特集]エマージングウイルスからの警告
 1980年、WHOは人類を長い間苦しめてきた天然痘の根絶を宣言し、人類はあらゆる感染症を克服できる力を持ったかのように見えた。しかしその直後からエイズ、SARS、鳥インフルエンザと、人類が経験したことのないエマージングウイルスによる感染症が毎年のように発生し、人類は新たな恐怖に直面することになる。今回のメキシコ発の新型インフルエンザも今のところ弱毒性であるが、あっという間に世界を一周してしまった。エマージングウイルスの出現は、グローバル化した現代文明と無縁ではない。エマージングウイルスを通して、われわれの今を考える。

 

排除から共生へ−ウイルスと人間の生存戦略
●東京大学名誉教授 山内一也
キラーウイルスの誕生は現代社会が引き起こした


 エマージングウイルスの発生は、第2次大戦以降の急激な人口増加と森林破壊、航空網の発達、農業や畜産の変化などによって引き起こされている。今回の新型インフルエンザも近代的な大規模養豚が背景にあったという。本来動物と共存してきたウイルスがなぜ人類の脅威となったのか。ウイルスの知られざる側面を探るとともに、エマージングウイルスの時代を生きる術を考える。

 

【コラム】20世紀後半から世界各地で頻発するエマージングウイルス


生命の起源も進化もウイルスのおかげ!?
●生物学者 長沼 毅
ウイルスなしには人間も存在し得なかった

 私たちの中には「ウイルス=人類の敵」という図式があるようだが、そういう側面のみが強調されすぎていないだろうか。人類の出現よりもはるか前、30億年も前に出現し、いまやすべての生物界に見いだされるウイルスが果たしてきた役割と、その可能性を探る。


【コラム】感染症と人類の歴史

 

日本は大丈夫か?

WHO感染症対策アドバイザー・東北大学教授 押谷 仁
新型インフルエンザ対応で見えたわが国の問題点


 2002年に発生したエマージングウイルスによる感染症・SARSは、世界中の研究者が連携し、情報網を共有して、短期間でみごとに封じ込めることができた。このとき事態収束の現場指揮に当たった押谷仁氏は、帰国後、政府の新型インフルエンザ対策に厳しい注文を付け続けてきた。押谷氏の目には、今回の新型インフルエンザや日本の対応はどのように見えたのか。マスメディアの情報からは見えない実態を明らかにする。

 

日本の感染爆発に備える
●姫野病院救急総合診療科部長 永田高志
「事後検証」が未来を変える


 4月22日にメキシコのニュースから始まった今回のインフルエンザ騒動。日本では少し治まりを見せ始めたいまこそ、この約1カ月間を振り返ってみる必要があると、救急医・永田高志氏は語る。
 アメリカで公衆衛生、健康危機管理、災害医療などを学んだ永田氏が提言する、日本で感染爆発が起こったときに備えるためにしておかなければならないこととは? 今回の一連の騒動から何が見えてきたのか?


たとえ明日地球が滅ぶとも……
●映画監督 瀬々敬久
「たとえ明日、地球が滅ぶとも、今日、君はりんごの樹を植える」

 未知のウイルスによる感染爆発が、人々に与える影響を詳細に描いた映画「感染列島」。リアリティ溢れる映像の奥で、ウイルス感染症は、人間が自ら招いた結果であること訴え、私たちの「生きる姿勢」を問い直す。そこには、脚本・監督をつとめ、これまで人間の生死に関わる映画を撮り続けてきた瀬々敬久氏の命への深い眼差しがあった。もしも、感染爆発によって悲惨な状況がもたらされたとしたら、一体私には何ができるのか、最期まで生き抜く覚悟があるだろうかと考えさせられる。


【コラム】知っておきたい! 新型インフルエンザQ&A


【特別インタビュー】
前途は多難でいい!
●東海大学教育開発研究所所長 秋山 仁

【新連載】

 

「ノンフィクション・ヒューマンストーリー」
煉獄の彼方―私の歩いた道

●タイワン建国運動家 郭 振純

【好評連載】

 

TAWAMURE─photo Ryojinhisho 7

●写真家 大橋 弘

RINGО白書<13>
Network(連携)とGrit(気骨)
忍耐と寛容の人間関係

●一般社団法人「日本家庭教育再生機構」
 理事長 長田百合子

木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<15>
地の章 基本力編
金井清一
「凄みを感じさせない凄さ」をもつ偉大なゴルファー

●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦

いのちの泉<19>
ヨコ書き派の陰謀

●宗教学者 山折哲雄

シュトゥットガルトの空から<19>
菜の花畑のリューゲン島

●作家 川口マーン惠美

二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<18>

●外交評論家 加瀬英明

文明の新地平<30>
水は危機であるか(中)

●評論家・麗澤大学教授 松本健一

黙さず語らん<54>

●作家 藤本義一

にっぽん人情小噺<43>
踏切

●落語家 三遊亭鳳豊

未知なる輝き<49>
仏師が認めた“大物”

●東京藝術大学大学院美術研究科
 博士後期課程 黒柳奈未子

続・心語余滴<14>

 

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<161>

●写真家 浅井愼平

表紙撮影・岡田克敏

 





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