2009年12月号

独慎抄

さあ、なにほどでも来い
自己という存在の本来の面目とは

 日本曹洞宗の開祖・道元が宋代の中国に渡って仏道修行に励み帰国した。そのときを回顧した言葉に「眼横鼻直(がんのうびじょく)なることを認得して」とある。動かしがたい真実(まこと)、つまり、あるがままという仏道に出会って帰国した。「朝には太陽が東から昇り、夜には月が西に沈む、ということだ」とも説いている。「困難なことがやってくるほど面白みがていてくる」と言った勝海舟は、眼横鼻直に徹して、「さあ、なにほどでも来い」と独座した。自己という存在の本来の面目、宇宙いっぱいの真実そのものをわれわれは生きているだろうか。

 

【特集】
『眼横鼻直』
(がんのうびじょく)

【主筆対談】
愛国と国際性の「フィロソフィー」
●日本学士院会員・ラホイヤアレルギー免疫研究所名誉所長
 石坂公成
●本誌主筆 井原甲二
今必要な国益という視点


 アメリカがオバマ大統領を選び、日本は民主党政権を誕生させた。しかし、この日米の“チャレンジ”は同質のものではない。違いは、リーダーのフィロソフィー(哲学)の有無にある。国を愛する心と国際性を持たなければ、リーダーにフィロソフィーは生まれない。それこそが、戦略的かつ現実的な方針を世界に示すことであると同時に、国民を奮い立たせる力でもある。戦中の他国をすべて否定する愛国心から、他国を考えることによって自国を愛する愛国心へと戦後は転換した。これを逆流させるような内向きの議論がはびこっている今、「日本の真実」を直視し、国益という視点に立ってフィロソフィーを語るリーダーが求められている。

 

【対談】
にっぽんの顔、日本人の顔
●前駐ウクライナ大使・防衛大学校教授 馬渕睦夫
●作家 川口マーン惠美
近代化と伝統文化の維持という相克を乗り越えた日本にできること


 私たちは自分の顔を直接見ることができないのと同じように、世界における日本の顔を認識するのは難しい。外交官や大使として欧米、東欧、アジアをはじめさまざまな文化圏に赴いてきた馬渕睦夫氏。そして、ドイツで生活しつつリアルな眼差しで日本を見つめてきた作家・川口マーン惠美氏。馬渕氏が「諸外国は日本を、近代化と伝統文化の維持を両立させた国と映っている」と語れば、「日本人は暮らしから、衣食住のうちの衣と住は捨ててしまった」と反論する川口氏。諸外国は日本をどう見ているのか、力と力がぶつかるパワーポリティクスの国際社会で日本が生き残る道はあるのか−。鳩山政権の外交構想や、日本のODAの精神に触れながら、両氏が実感をもって語る「日本が世界に果たすべき役割と、日本人の生き方」。


感謝と辛抱が幸せのはじまり
千二百五十年の法灯が説き伝える「あるがままに生かされ生きる極意」
●法華寺門跡 久我高照(こが・こうしょう)
暑さ寒さにもお世話になって

 聖武天皇の后であった光明皇后が建立した奈良・法華寺。国宝「十一面観音立像」は光明皇后を写したものといわれ、総国分尼寺として尼僧たちの心のよりどころとなってきた。その法華寺が2010年には光明皇后没後1250年の大遠忌を迎える。現在、法華寺の法灯を守り続ける久我高照門跡は、戦争中も本尊を守り抜き、世の中の変化も敏感に感じ取ってきた。そして今、あるがままに生きることの辛抱の中に感謝を持つことが幸せのはじまりだという。「知らない人にも支えられて今日まで生きさせてもらっている。暑さや寒さにもお世話になっている」と語る言葉の重みを感じる。


銀河の中の私
●愛媛大学宇宙進化研究センター長 谷口義明
目には見えない物質を追って

「銀河に笑われないような研究を心掛けてきた」という天文学者・谷口義明氏。宇宙の中で人間が現在分かっていることなど一握り。宇宙の全質量の95パーセントを占めながら、その正体はいまだ解明されていないダークマターやダークエネルギーを研究している谷口氏はそれを痛感している。手探りの研究の中でよすがとするのは、人間中心の視点を捨て、銀河やダークマターの視点に立って問い直すこと。その問い直しが、宇宙の中にいる人間という存在の理解をさらに深めていく。


ヒトが人である理由
●東京大学教授 佐倉 統
「進化論」から得られる俯瞰の眼差し

 これまで学問は、人間のさまざまな固定観念を覆してきた。その大きな一つとして挙げられるのが、チャールズ・ダーウィンの「進化論」である。それまで特別だと考えられていたわれわれ人間が、実は他の生物と一続きであるというその発表は、人間にとって大きな衝撃だった。それは人間の持つ「自分中心主義」という本能にそぐわなかったためだと東京大学教授・佐倉統氏は言う。「自分中心主義」は人間が進化の過程で得た心の在り方だが、同時に物事を歪めて見せる恐れもある。その落とし穴に落ちないための一つのツールとして「進化論」という考え方を探る。


人間と微生物の未知なる共生関係
●「アチック・ラボ」主宰・東北大学名誉教授 服部 勉

人間と微生物は生き物として“お互い様”


 
36億年以上も前から地球に住む微生物たちは、後から現れた動物や植物の生をも支えているという。環境への関心が高まると、微生物たちが築き上げてきた地球環境を人間が壊し、生態系のバランスを崩しているという言葉が聞かれるようになった。しかし、60年に渡って土壌微生物を探求してきた服部勉氏は、「微生物と人間は、地球に住む生き物としては“お互い様”です」と語る。人間はあらゆる生物との相互関係の中で生き続けてきた。その事実を今一度見つめ直すことから、地球環境を考えてみたい。


「膜」は人間をどう生かしてきたか
●医学博士・川崎医科大学名誉教授 八幡義人

「膜」は生命維持装置


 細胞には大きさや形、機能など生物や体内の組織によってさまざまな種類があるが、すべての細胞に共通する特徴が二つ見られる。ひとつは、「膜」で覆われていること。もうひとつは、その内部に遺伝情報を備えていること。「膜」の存在がなければ、細胞は存在し得なかっただろう。さらに膜は、我々の生命を維持させる驚くべき機能を有していた。赤血球膜を研究し続けてきた八幡義人氏に聞く、知られざる「膜」の働きと、その存在から見えてくる生命。


アインシュタインは何を観たのか
人智を超えた「何ものか」の知覚
●物理学者・静岡理工科大学教授 志村史夫

リアルな自然を分かっていくことの意味


 量子論の登場によって科学の世界に革命がもたらされた。それは、われわれの世界(マクロ世界)とは違う論理がミクロ世界で起こっているということの発見だった。人間の意志が物質に影響を与えることが分かってくると、それまでの前提であった物質は化学の領域、意志は宗教の領域という明確な区分けができなくなったのである。アインシュタインら科学の先達は、人智を超えた何ものかを想わざるを得ないと述べているが、リアルな自然を謙虚に観察するほど、そうした何ものかの知覚につながる。科学と宗教・哲学の融合を志村史夫博士は提唱する。


【特別対談】
ヒトから人間へ、そして人物へ
教科「日本語」と江戸しぐさに共通するもの
●世田谷区教育委員会教育長 若井田 正文
●NPО法人江戸しぐさ副理事長・ジャーナリスト 桐山 勝

新しい教育の形がここに


 小学校一年生の教室から響いてくる、和歌や俳句、『論語』を朗唱する元気な声。それはまるで江戸の寺子屋−。
「美しい日本語を世田谷の学校から」をスローガンに、新しい教科「日本語」を生み出し、区内の公立全小中学校九十五校で「日本語教育」を推進する東京都世田谷区。「ヒトから人間へ、そして人物へ」育てようとした江戸しぐさ、江戸の教育に通じる。その推進役、若井田正文教育長と、このほど『人づくりと江戸しぐさ おもしろ義塾』を上梓した桐山勝氏が「教育の本質とその実践」について語り合う。

【好評連載】

 

「ノンフィクション・ヒューマンストーリー」
煉獄の彼方ー私の歩いた道<6>

●タイワン建国運動家 郭 振純

photo Ryojinhisho<12>
TAWAMURE

●写真家 大橋 弘

木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<20>
地の章 特別編
河野光隆 HОDОGAYA DNA

●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦

いのちの泉<24>
神仏共存のもう一つの光景

●宗教学者 山折哲雄

時空の旅人<22>
放浪の詩人、ランボー

●生物学者 長沼 毅

二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<23>

●外交評論家 加瀬英明

文明の新地平<34>
東アジア共同体の理念(中)

●評論家 松本健一

黙さず語らん<59>
スケッチ

●作家 藤本義一

にっぽん人情小噺<48>
車掌さん

●落語家 三遊亭鳳豊

続・心語余滴<19>

 

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<166>

●写真家 浅井愼平

表紙撮影 鶴田孝介





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