2009年11月号

独慎抄

心の襞(ひだ)、そして感受性という本能
誰かのせいにして生きていくのか

 「自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ」。詩人・茨木のり子の「自分の感受性くらい」が鋭く投げかけるこの言葉に、「うっ」と息を止められた人は少なくないだろう。他人のせいにする、身近な人のせいにする、暮らしのせいにする、時代のせいにする、その瞬間に感性は麻痺していく。それもまた人間であるがゆえの「業」であり「癖」なのだろう。しかし、どうしても捨てきれない業であり癖であるならば、誰かのせいにして自分をごまかすようなものではなく、みずみずしい心の襞を持って、成熟と独立とを目指す業や癖を身に付けたい。それが感受性を自ら守っていくことにほかならない。

 

【特集】
『人間本能−プラス本能のすすめ』

【主筆対談】
1ミリの差に宿るもの
●バレリーナ 吉田 都
●本誌主筆 井原甲二
「好き」は苦しみとともにある


 世界的なバレリーナ・吉田都さんが現在の自分を築いたのは、数々の苦悩を毎日の稽古によって克服してきたから。幾多の試練も「すべてが、ちょうどよいタイミングで用意されていた」とさえ言う。苦しみながらも常に好きだったバレエひとすじの人生で得た境地は、日本の剣や茶道、仏教のそれとも通じる。1ミリの差を自覚する本能、その感性が極めた世界の根底にあることを教えてくれる。

 

苦しみを求めて生きてみろ!
−勝たせる熱情と、応える責任と
●プロ野球評論家・日本プロ野球OBクラブ名誉会長 大沢啓二
球界のご意見番がニッポンに「喝!」


 「体で覚えたことが本当の財産。おれにとっては一生の宝だ」「途中で苦しみに耐えられず脱落していく奴は、結局、仕事に就いても耐えられない。やっぱり志した道を最後まで貫くことを教えてあげたい」
 歯に衣を着せぬ発言で茶の間の人気を博している野球界のご意見番「大沢親分」が、自らの体験から身に付けた「自分自身の本能を活性化させる生き方」を説く。


勝ちを求めず、勝負の前に強くあれ!
●「雀鬼会」会長 桜井章一
真の強さを知る“鬼”の生き様

 実業家や政治家たちに代わって麻雀を打つ“代打ち”として数々の修羅場を潜り抜け、20年間無敗の伝説を築き上げた、雀鬼・桜井章一氏。桜井氏は、常に己の本能を生かし、勝負に金に溺れることなく生きてきた。その生き様に憧れ、共感し、自らも強くなりたいと教えを請う若者や企業家、教育者は後を絶たない。「考えるな、感じろ」「麻雀だけ強くなろうったって無理。日常の瞬間瞬間をどう生きるかだ」という言葉からは、本能によって導かれ掴んできた人生哲学がにじみ出る。


【ビジュアル】
遊びをせんとや生まれけむ
●写真 大橋 弘



人間の前提
人の心の「裏」を観てきた元捜査一課刑事の独白
●作家・元警視庁捜査一課刑事 飯田裕久
リアルさを実感する本能

 人間の修羅場を現場とし、犯罪者を追いかけ、自白に導く刑事という仕事は、私たちの日常の中にありながらも表には現れにくい特別な世界を常にフィールドとする。そこで蠢(うごめ)く人間の感情や我欲といったリアルな姿は、人間という生き物の前提を変えてしまう。私たちは、明日もまた生きていると信じ込み、生きている感覚も乏しくないだろうか。飯田氏が刑事時代に感じた「10秒先は分からない」「人生は一度しかない」という実感、これこそが人間にとってリアルな前提となるべきことではないのか。


人間が“無限”に思考できる理由
●言語脳科学者・東京大学准教授 酒井邦嘉
人間を人間足らしめている脳のからくり

 人間と他の動物とを分けた言語。さらに、人間同士でも住む土地や民族が違えば、使う言語は多種多様である。しかし、表面的には異なっているそれぞれの言語も、根底には人類共通の「思考言語」が存在していると、言語脳科学者・酒井邦嘉氏は語る。
 言語の文法を追究すると、われわれの脳の仕組みが見えてくる。そして、人間の思考や芸術をも貫く、人類の脳のからくりとは……?


遺伝子からみた死生観
−利他的に生きる細胞の壮大な生命システム
●分子生物学者・東京理科大学教授 田沼靖一

生物は利他的に生きるようにプログラムされている


 「死」とは何か、を医学的にでもなく、宗教的にでもなく、社会的にでもなく、フィジカルに説く「アポトーシス(再生系細胞の死)」と「アポビオーシス(非再生系細胞の死)」の視点は、細胞が生きていくうえで死が内包されていることを明らかにする。つまり、私たちの60兆の体細胞は死という本能を持ったまま生きていることになる。しかも、この死のシステムは、生物の世界に限らず、地球にも、宇宙にも階層的に貫かれているという。死のシステムから捉え直すとき、私たちの遺伝子が他を生かす「利他的」なものであることが見えてくる。利他的に生きることが自己の根源的なあり方だったのだ。

【好評連載】

 

「ノンフィクション・ヒューマンストーリー」
煉獄の彼方ー私の歩いた道<5>

●タイワン建国運動家 郭 振純

photo Ryojinhisho<11>
TAWAMURE

●写真家 大橋 弘

木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<19>
地の章 思考力編
勝 新太郎
「人生意気に感ず」男の生きざま

●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦

いのちの泉<23>
リオデジャネイロのガンディー

●宗教学者 山折哲雄

時空の旅人<21>
僕はあえて「なぜ」を問う
−Howを問答する科学者からWhyを吟呻する考究家への脱皮

●生物学者 長沼 毅

シュトゥットガルトの空から<23>
ポーランドの悲劇とドイツ

●作家 川口マーン惠美

二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<22>

●外交評論家 加瀬英明

文明の新地平<33>
東アジア共同体の理念(上)

●評論家・麗澤大学教授 松本健一

黙さず語らん<58>
四苦八苦

●作家 藤本義一

にっぽん人情小噺<47>
校庭

●落語家 三遊亭鳳豊

未知なる輝き<51>
「もうひとつの戦後」

●映画監督 松林要樹

続・心語余滴<18>

 

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<165>

●写真家 浅井愼平

●表紙 鶴田浩介





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