2009年10月号
独慎抄
記憶、時間、空間、そして心へ
心を問い続けていく広範な領域

 私たちは、心という難解な問題を、自然学に属するのか、人文学に属するのか、と対立的構造で考えてきたのではなかったか。同じ地平で語り合うことはできなかったのか。発生学を研究した木下清一郎氏によると、物質世界から生物世界が拓かれ(核酸の自己触媒による自己複製)、生物世界から心の世界が拓かれた(神経系による)という。そして、記憶という能力を持ったことによって、過去と現在を照らし合わせることが可能になり(時間と空間の認識)、生物は時間と空間の獲得によって「心」を発生させた、とも述べる。自然学も人文学も、「心」を媒介として融合することが可能であろう。「心」とは、そういう広範な領域で問い続けていく問題なのである。
【特集】
『こころの構造』
【主筆対談】
「KOKORO」のダイアグラム?「分かる」と「分からない」の境界に立って心を観る
●東京大学名誉教授・千葉工業大学惑星探査研究センター所長 松井孝典
●本誌主筆 井原甲二

「二元論」と「要素還元主義」で心は分かるか!?

 世の中の議論は「分かる・分からない」の世界のことと、「納得する・納得しない」の世界のことが、未整理のまま行われている。科学は、「二元論」と「要素還元主義」に基づいて明確にする「分かる・分からない」の世界で展開されるため、個人的恣意や過去の経験則で判断されない。その科学のルールに基づくならば、「心」はどのように言うことができるだろうか…。
【対談】
こころ、この厄介なるもの
●作家・僧侶 玄侑宗久 
●精神科医 片田珠美
無意識に横たわる欲望と自罰衝動

 精神分析の祖フロイトによる「無意識」の発見は20世紀最大の発見の一つとされた。一方、その遥か昔に、東洋では仏教思想の流れの中で「唯識」が体系付けられている。私たちの中には、意識では如何ともしがたい心、無意識が大きく横たわっており、自ら破壊的な衝動や病を引き起こしたり、逆に、運命を切り開くエネルギーともなったりする。近年急増してきたさまざまな心の病、あるいは頻発する無差別殺人も、これと無縁ではない。『無差別殺人の精神分析』を世に問い、注目を浴びている精神科医の片田珠美氏と、多重人格、解離性同一性障害をテーマとした長編小説『阿修羅』をまもなく上梓する玄侑宗久氏。現代日本における心の専門家といえる気鋭の両氏が、現代人の心の危機から現代社会の問題点まで、縦横無尽に語り尽くす。


子どもから「表現」を奪わないで!?絵に秘められた子どもの真実
●NPO法人ライフスキル研究所理事長 小村チエ子
絵は子どもを知る手がかり

 現代では、小学校や幼稚園でも絵が描けない子どもが増え、表現力や想像力も低下している。さらには、成長を後戻りする「退行」表現を見せる子どもが増えているという。
 30年以上に渡り、子どもたちの絵を見てきた小村チエ子氏は、「落書きに見えるような絵や、一見不可解な子どもの行動には彼らの無意識の欲求や感情が潜んでいます」と語る。絵や行動は、子どもたちの声なき声なのだ。今、子どもたちは何を感じ、何を求めているのか。子どもたちの心の声に耳を傾けてみる。


現代の精神的空虚感はどこから来るのか
●哲学者・大阪府立大学名誉教授 山田邦男
「人間中心主義」から「存在中心主義」への大転換

 現代は、テクノロジーの飛躍的発展とそれに伴う欲望の肥大化によって、外にあっては地球環境の破壊、内にあっては精神的空虚感という内外二重の危機に直面している─。そう指摘するのは、哲学者の山田邦男氏である。
 氏の言う「テクノロジー、欲望、ニヒリズムの三位一体的渦動運動」の最中にある現代にあって、その危機を乗り越えるために、われわれに何が必要なのか。とりわけ、人を育てるという視点から聞いた。


「囚われ」の発見は「私らしさ」の創造
●聖心女子大学名誉教授 鈴木秀子
自分を知ることで自らを活かす

  私たちは葛藤や困難、人間関係の不全などに陥ったとき、被害者意識に搦め捕られたり、誰かに責任転嫁をすることがある。しかし、実際は自分自身が問題を引き寄せていることも少なくない。イスラム世界で2000年にもわたり「秘伝」とされてきた人間学「エニアグラム」は、各人が持っている「囚われ」が問題を引き起こす原因であるとし、それは生まれながらにして誰にでも備わっているものだとする。
 日本にエニアグラムを紹介し、その解説書でもある『9つの性格』を著した鈴木秀子氏に、人間を囚われから解放する「エニアグラム」の知恵を聞く。


〈現場レポート〉壁をこえて
発達障がい児を取り巻く環境を変える取り組み

 かつて学級崩壊は、子どもによる教師への反抗、あるいは教師の力量不足によるものと言われていたが、いまや「ADHD」などの発達障がいのある子どもへの不適切な対応からくるものが多いとされる。発達障がいは対人関係や行動面に出てくる障がいで、原因として中枢神経系に機能不全や機能障害があると推定されているが、病理学的に確定されていない。文部科学省の調査では、子ども全体の6.3パーセントが発達障がい(疑い含む)といわれるが、見えにくい、分かりづらい障がいだけに、全国的に対応が遅れているという。そんな中、いち早くサポートに乗り出したのが栃木市である。福祉、教育、医療、地域が一体となって取り組む現場を訪ねた。

【好評連載】
「ノンフィクション・ヒューマンストーリー」
煉獄の彼方ー私の歩いた道<4>
●タイワン建国運動家 郭 振純
photo Ryojinhisho<10>
TAWAMURE
●写真家 大橋 弘
木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<18>
地の章 思考力編
陳佐藤精一
ー変幻自在・自然流ゴルフ
●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦
いのちの泉<22>
無常の風
●宗教学者 山折哲雄
時空の旅人<20>
氷河期を生き抜いた“先人”たち
●生物学者 長沼 毅
シュトゥットガルトの空から<22>
健康は気から?
●作家 川口マーン惠美
二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<21>
●外交評論家 加瀬英明
文明の地平<32>
水を奪い合う「ライバル」
●外交評論家 加瀬英明
黙さず語らん<57>
点字言葉
●作家 藤本義一
にっぽん人情小噺<46>
●落語家 三遊亭鳳豊
未知なる輝き<50>
固有の「時」を創る
●砂時計職人 金子勲
続・心語余滴<17>
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<164> ●写真家 浅井愼平