2009年8月号

独慎抄

世界が希求する「平和」を実現した江戸の教養
徳治によって涵養した教養とモラルの国家

 徳を修め助け合うという国家理念、識字率に現れた教育レベルの高さ、インフラ整備と地場産業の創出、それらを実現した江戸という時代の眼力は、17世紀から19世紀後半の世界の中でも特筆すべきものである。文化とは、その民族の持つ「暗黙知」であり、暗黙知とは民族の教養そのもの。その教養が明治以降の日本の近代化や工業化を短期間に実現させたと言える。世界が求める平和国家を実現させた稀有な時代がこの日本に存在したことを、閉塞した今だからこそ見直したい。

 

【特集】
『江戸の眼力』

【特別対談】
歌舞伎という「和楽」
−日本の独創的傾(かぶ)き遺伝子(ミーム)
●歌舞伎俳優 坂東玉三郎
●本誌主筆 井原甲二
規範を絶対視しないで楽しむ柔軟性


 「お上はどうであれ、自分たちは自分たちで楽しもうよ」という精神を持っていたのが江戸時代の人々だったのではないかと玉三郎丈は言う。その精神こそが傾(かぶ)き者の真髄であった。規範は規範としつつ、それを絶対視しないで楽しもうという「破れ」を持ち合わせた柔軟な文化が醸成されていた。それが日本独自の民主主義にも通じていた。日本人の精神的遺伝子(ミーム)は現代の若者にも受け継がれているはずだと考える玉三郎丈が縦横無尽の歌舞伎論・日本文化論を展開する。

 

【対談】
日本の近代は江戸時代から始まった
−日本独自の展開を見せた個人主義と資本主義
●元最高裁判所長官 山口 繁
●歴史家・麗澤大学教授 松本健一
江戸時代は中世か? 近世か? 近代か?


 近代とは何か! 欧米の定義では「ルネサンスがないこと、宗教改革がないこと、産業革命がないこと」だという。私たち日本人が「江戸時代は暗黒の時代、停滞の時代であった」と信じ込まされてきた理由である。だが……。20世紀文明の終わりが始まった現代社会において、「共生や循環社会、高度な公徳心、世界的にも傑出した知的水準」を持ちえた江戸時代が世界中から注目を浴びつつある。近現代の欧米的前提を遥かに凌駕する、新時代の新たな前提的視点と日本文化の本質論を、日本を代表する2人の教養人が熱論する。


【対談】
パクス・トクガワーナの真実
−平和国家を実現した自由と共生の統治システム
●徳川宗家十八代当主・徳川記念財団理事長 徳川恒孝
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
鎖国も参勤交代も和平的国家システム

 徳川家康が「和を以って貴しとなす」の「和」に回帰することを宣言した「元和偃武」がパクス・トクガワーナ(徳川の平和国家)の原点にある。鎖国は軍事の拡大を防ぎ、参勤交代は街道沿いを中心とした全国の経済発展の基盤となると同時に、中央での統治のあり方を学び藩を運営する仕組みでもあった。しかも、高度の循環型社会が成立していたことは、エコ社会実現にエネルギーを注ぐ現代に、大きな示唆を投げかける。バランスの取れた総合的なシステムが文化国家建設にプラスに作用した260年間は、西洋的歴史観では図ることのできない自由度と幸福度を兼ね備えていたことを明らかにする。


市場経済を成熟させた二百六十年の試行錯誤
●上智大学教授 鬼頭 宏
近代化の素地をつくった江戸の民衆

 土地を基礎とした封建社会と市場経済が共存した江戸時代。地方や農村にまで市場経済が浸透したことで、農民は農作物や手工業品を「商品」として見始め、技術や産業が発展していった。明治維新以後の近代化の素地はこのときにつくられたのではないかと鬼頭宏氏は言う。
 一方、加速する市場経済化によって江戸独自の幕藩体制というシステムの崩壊を防ごうとした幕府にとっては常に試行錯誤の時代でもあった。しかし、そうした「産みの苦しみ」や試行錯誤を繰り返しながら、江戸に生きた人々はさらなる新たな展開をしていった。


書物が醸成した江戸庶民の活力
●作家・古書店店主 出久根達郎

江戸庶民の学問への情熱

 

江戸時代における日本の識字率は世界1位。

このことを裏付けるかのように、当時庶民たちが熱心に学び、100年以上もの間読まれ続けた学問書があった。彼らの学習意欲や高い教養はどこから生まれたのか? 書物の存在を通して、江戸庶民の真の姿を探る。

【特別インタビュー】

 

許水徳の「六中観」−全力を尽くして生きる心構え

●元台湾考試院院長 許 水徳

【好評連載】

 

「ノンフィクション・ヒューマンストーリー」
煉獄の彼方ー私の歩いた道(第2回)

●タイワン建国運動家 郭 振純

TAWAMURE─photo Ryojinhisho 8

●写真家 大橋 弘

RINGО白書<最終回>
Oblige(感謝の心、公徳心)
「ありがたい」「おかげさま」の心

●一般社団法人「日本家庭教育再生機構」
 理事長 長田百合子

木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<16>
地の章 思考力編
杉原輝雄
ー分を弁えた信念のゴルファー

●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦

いのちの泉<20>
「土」という字の垂線は上から書くか? 下から書くか?

●宗教学者 山折哲雄

時空の旅人<18>
風水都市・江戸東京

●生物学者 長沼 毅

シュトゥットガルトの空から<20>
ドイツ人と魚料理

●作家 川口マーン惠美

二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<19>

●外交評論家 加瀬英明

高橋史朗の第三の教育論<最終回>
〔特別対談〕 逆境の時代、夢実現の先頭に立つ

−人間の可能性と地方の可能性に賭ける知事

●ゲスト 熊本県知事 蒲島郁夫

●明星大学教授 高橋史朗

黙さず語らん<55>
よみがえり

●作家 藤本義一

にっぽん人情小噺<44>
戦友

●落語家 三遊亭鳳豊

続・心語余滴<15>

 

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<162>

●写真家 浅井愼平

 

表紙撮影・鶴田孝介

 





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