2009年6月号

独慎抄

絆と絆(ほだ)しを断った家族は何を刻むというのか

 「個」の存在を育んでいる基盤は家族だと考える。ところが、その家族間での惨い出来事が続発している。家族は根本的に精神的な絆でむすばれているものだが、絆の裏側には絆しという手かせ足かせが存在している。絆という一面だけをもって家族を営んでいくことは不可能である。もし、絆しを、あるいは絆まで断ち切ろうとすれば、その関係性は家族ではなくなる。身近すぎて曖昧な言葉である家族なのだが、痛みを直接感じ合う関係性こそが実は「個」を慈しむかけがえのない存在であることを認識しない限り、家族にかかわる安易な断絶は増えるばかりである。

 

【特集】
『家族の実像』

【対談】
生と死の滴(しずく)を掬(すく)う家族
●俳優 本木雅弘
●本誌主筆 井原甲二
人の生死は家族によってろ過される


 映画「おくりびと」で納棺師を演じた本木雅弘氏は、生の現場と死の現場が同じ質感をもっていることを感じたという。まさに生死一如である。人は家族の中で生まれ、家族の中で旅立っていくのだが、その生と死の瞬間にこぼれ落ちるひと滴を、家族という手のひらが受け止めることで、生まれる者も、亡くなる者も、それぞれの役割を果たすことになる。つまり、生まれて死んでいく人生のひと滴が家族によってろ過されることになる。人は、家族という風土の中で生と死の営みを繰り返してきた生き物だったのだ。


妻と私の約束事
●松本サリン事件被害者 河野義行
日本一強い男を支えた妻の存在

 1994年6月に発生した松本サリン事件を機に、理不尽の極みを経験した家族。夫はサリンを撒いた被疑者と見られ、妻は意識不明の状態で入院。家には中学・高校生の3人の子どもたちが残された。夫の疑惑が晴れたのは、その1年後。妻は昨年8月に、14年間意識不明のまま帰らぬ人となった。
 人はこれを「不幸」という言葉でくくるだろうが、この一家はまったく違っていた。河野義行さんのユニークな子育て法と、妻の澄子さんとの深い夫婦の交流を描き出す。


*河野義行さんの著書『妻よ!』に基づいた2時間ドラマがフジテレビ系列にて、6月26日か27日(予定)に放送されます。

 

「母を知らない」それが私の拉致問題
●北朝鮮拉致被害者・田口八重子さん長男 飯塚耕一郎
自分にとっての家族とは何か


 顔さえ知らない母親を、あの国から救い出す。飯塚耕一郎氏の拉致被害者救出のための活動は、実感を手探りしつつ国内外にアピールするという、根深い問題を抱えている。それを自分の宿命と捉え、母親を「八重子さん」と呼び、「泣くことは私の感情とは違う」と言い切る。しかし、飯塚氏の周囲には家族以上の家族が大勢いるのだという。自分にとっての家族とは何か、を考えさせられる。


「個人化」する家族
−墓と葬送から浮かび上がる現代家族の揺らぎ
●茨城キリスト教大学教授 森 謙二
死者の尊厳を守るのは誰か

 かつて墓は、家族が守り受け継いでいくものであった。しかし近年では、散骨や無縁の墓、生前に墓を購入する人の増加が著しく、葬送のあり方にも大きな変化が起きている。これらは、墓と家族の意味を見失いつつある現代を象徴しているのではないだろうか。家族が墓を守れなくなったとき、一体誰が死者の尊厳を守っていくのか。墓と葬送の歴史が明らかにする、現代家族のあり方と家族意識。


日本の家族史をたどる
−所有と継承が繋いできた家族のかたち
● 歴史学者 明石一紀
家族の底流に存在するものとは

 親と子が寝食をともにする原始的な集合体から、持続的に生産や経営を行う社会単位へ。家族はその形態と役割を、時代に応じて変化させてきた。日本古代史を研究し続けてきた歴史学者・明石氏が、家族意識の変遷と、民族性が底流に存在する“日本的家族”のあり方をひもといてゆく。そこから見えてくる、「家族」という存在の意味とは。


崩壊したのは「家族」なのか?
●京都大学大学院教授 落合恵美子
「いま、ここ」の家族を相対化する

 「近代家族」という概念がある。父は会社勤め、母は家事をし、2人か3人の子どもと愛情によって結ばれている、といった現代において一般的に思い描く家族のことである。しかし、歴史的に見てみると、ほんの数百年前ですらずいぶん違う家族の姿があること、また他国との比較からは家族の多様な在り方を見て取ることができる。度々耳にする「家族の崩壊」「家族の危機」の意味を「いま、ここ」の家族を相対化することから考える。


【特別インタビュー】
「思いやりの心」が国を興し、人を育てる
−タイワン建国の原動力は美しい日本精神にある
●タイワン建国運動家 郭 振純(かく・しんじゅん)
日本語が支えた獄中生活

 郭振純氏は、台湾建国運動のかどで捉えられ、22年間に及ぶ牢獄生活を余儀なくされた。しかし、その長い時間を支え続けたのは、日本統治時代に学んだ日本精神であり、泣く泣く覚えた日本語の書物を読み、和歌を詠むことで得た心の安定であった。その日本精神を一言で表せば「思いやりの心」だと郭氏はいう。未だ建国していない台湾を、「思いやりの心」のある国として建国したいのだと84歳の“古武士”が語る。

【好評連載】

 

TAWAMURE─photo Ryojinhisho 6

●写真家 大橋 弘

RINGО白書<12>
Network(連携) 子どもから目を背ける大人たち

●一般社団法人「日本家庭教育再生機構」
 理事長 長田百合子

木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<14>
人の章 精神力編
河野高明
−限界を超えた孤高の求道者

●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦

いのちの泉<18>
幸福感と無常感

●宗教学者 山折哲雄

時空の旅人<17>
海へ、極点へ、探検家たちの系譜

●生物学者 長沼毅

シュトゥットガルトの空から<18>
花の都ウィーン

●作家 川口マーン惠美

二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<17>

●外交評論家 加瀬英明

高橋史朗の第三の教育論<71>
韓国とドイツに学ぶ青少年行政

●明星大学教授 高橋史朗

文明の新地平<29>
水は危機であるか(上)

●評論家・麗澤大学教授 松本健一

黙さず語らん<53>
非日常性

●作家 藤本義一

にっぽん人情小噺<42>
なっちゃん

●落語家 三遊亭鳳豊

続・心語余滴<13>

 

ザ・ビジネス・ドメイン
世界が注目するがん治療施設
−鹿児島・指宿の「メディポリス指宿」が日本経済に創出するもの

●財団法人メディポリス医学研究財団
 理事長・株式会社新日本科学代表取締役社長
 兼CEO 永田良一
●九州財務局長 豊岡俊彦

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<160>

●写真家 浅井愼平

表紙撮影 鶴田 孝介

 





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