2009年3月号

独慎抄

法の精神を形成する根源的関係性に直面する

法律が守ろうとする根源的価値は何か

モンテスキューの『法の精神』の冒頭には、「法律とは、その最も広い意味では、事物の本性に由来する必然的な諸関係である」と書かれている。さまざまな法律やその条文は、そもそも何を守るためのものかということを、モンテスキューは「関係性」だと言い表している。つまり、法が価値とするのは「関係性の精神」だと言う。しかし、人間は無知や誤謬に陥りやすい生き物だから、不変の関係性に支配されているにもかかわらず、その関係性を壊そうともする。だからこそ、「平和」や「生活」や「愛と絆」や「社会生活への願望」といった価値を壊して自滅することを自分たちで戒めていかなければならない。「人が人を裁く」という人間存在の負の本質は、人間に「徳」というものを突きつける。裁判員制度によって私たちは根源的関係性に直面することになるだろう。

 

【特集】『国民は裁判員裁判を受け入れられるか』

 人間関係が希薄となり、モラルが恐ろしい勢いで低下しつつある日本社会−。
 国民の裁判への参加は民主主義の基本といわれるが、裁判員制度の導入は、日本の法制度や日本人の意識、日本の国づくりにどんな影響を与えるのか。
 司法制度改革や裁判員制度の設計に取り組んできた法学者や関係者、刑事裁判に長年携わり裁判員裁判に取り組んでいく判事・弁護士、そして日本の司法や裁判を国民の視点から見てきたジャーナリストなど、錚々たる人々がこの誌上に集い、さまざまな視点・観点から裁判員制度を捉え、その可能性や期待、問題点を展開する。


【対談】
裁きの起源から考える 法、モラル、そして日本人
●元最高裁判所長官 山口繁
●本誌主筆 井原甲二

 重大な刑事裁判に国民が参加していく裁判員制度が、まもなく始まる。欧米諸国は200年以上も前から陪審や参審というかたちで国民が裁判に参加してきた歴史があるが、日本の裁判員制度は、無作為に選ばれた国民が量刑判断にも関わり、さらに裁判員1人の判断が裁判官1人と同じ重みをもつという先進的な一面をもっている。
 果たして日本人はこの重責に耐え、日本の司法制度の発展に寄与することができるのか。
 日本の司法のアイデンティティを研究してこられた山口繁元最高裁判所長官をゲストに迎え、法やモラル、裁判はそもそもどうして生まれたのかを根源的に探りつつ、日本独自の司法の可能性を、歴史を繙きながら迫る。

 

 

第1部 裁判員制度に期待するもの

「有罪率99.8パーセント」から考える−日本の刑事法制度と裁判員制度への期待

●学習院大学法科大学院教授・弁護士 龍岡資晃

 日本の刑事法制度は「精密司法」とも呼ばれ、先進諸国の中でも独特な展開をしてきた。その象徴とも言える99.8パーセントという有罪率の高さをもとに日本の刑事法の現状を示しつつ、裁判員制度導入によってそれがどう変わっていくのかを考える。

史上初の画期的な「司法への国民参加」−司法制度改革の歴史と裁判員制度
●京都大学大学院法学研究科教授 酒巻 匡

 裁判員制度の導入は、今回の司法制度改革の重要な柱として位置づけられている。この制度の設計段階に関与した刑事司法制度の研究者である筆者が、歴史的な視角からこの「国民の司法参加」の意義と司法制度改革の意味と将来を問う。

世界の陪審制と参審制
●法務省・刑事法制管理官 辻 裕教

 諸外国の中には古くから、陪審制や参審制というかたちで刑事司法への国民参加を制度化してきたところが多くある。陪審制を採用している英国と米国、参審制を採用しているフランスとドイツを取り上げ、導入の背景事情や制度の概要を紹介する。

反対論・消極論を検証する
●弁護士 岡 慎一

 日本の裁判は先進国としては珍しく、法律の専門家である裁判官・検察官・弁護人によって行われてきた。それだけに裁判員制度への不安やとまどいは大きい。さまざまな次元で語られる裁判員制度への反対論や消極論を整理して、検証する。

第2部 人を裁けるか

言葉も魂も痩せてきた時代に

●作家 曽野綾子

 言語を楽しみ、言語と苦闘してきた作家が、風評によって断罪され歴史的事実となっていた沖縄県渡嘉敷島の集団自決を自ら掘り起こした経験を示しつつ、表現力も人間理解も乏しい現代人に果たして公正な裁判ができるのかと、鋭い疑問を投げかける。

「専門家」に任せることなのか?
●ジャーナリスト 桝井成夫

 日本の司法は伝統的に、裁判官・検察官・弁護人という少数のギルド集団によって行われてきたため、国民からはほど遠い存在になってきた。司法の分野を長年追いかけてきたジャーナリストが、裁判における「専門と社会」という観点から、裁判員制度を考える。

第3部 裁判員裁判の実際

刑事事件における事実認定とは何か

●東京地方裁判所部総括判事 角田正紀

 裁判員となった国民が裁判で行うのは、事実認定と量刑の2つで、事実認定は、ある事実があったかどうかを証拠から判断していくものである。裁判員制度導入をにらんで模擬裁判を何度も経験し、試行錯誤を繰り返してきた裁判官が、事実認定の勘どころを述べる。

量刑判断の二つの視点
●東京地方裁判所部総括判事 合田悦三

 裁判員裁判において被告人が有罪と判断された場合、具体的にどのような刑に処すのかを決めるのが「量刑」である。一般国民にとって事実認定よりも戸惑いが大きいとされる量刑をどのような尺度で判断していくのか、その視点を示す。

模擬裁判傍聴レポート
 全国各地の裁判所では模擬裁判が盛んに行われてきた。1月末までに全国各地で行われた数は、560以上にものぼる。法曹関係者と一般国民が一体となって、制度運用のより良い方法を探っていく模擬裁判を2日間にわたって追いかけ、その概要をレポートした。

【好評連載】

 

TAWAMURE─photo Ryojinhisho 3

●写真家 大橋 弘

RINGО白書<9>
RIGHT(秩序)・その2
−威厳のある父親の存在

●一般社団法人「日本家庭教育再生機構」
 理事長 長田百合子

木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<11>
人の章 努力編
小野光一 愚直一筋で拓いたゴルフ人生

●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト 植田剛彦

いのちの泉<15>
四塔物語 京都〜東京〜大阪

●宗教学者 山折哲雄

時空の旅人<14>
ドレーク海峡と「壮大な進化史」

●生物学者 長沼毅

シュトゥットガルトの空から<15>
ブッデンブローク家の人びと

●作家 川口マーン惠美

二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<14>

●外交評論家 加瀬英明

文明の新地平<26>
ナショナル・トラストという考え方

●評論家・麗澤大学教授 松本健一

黙さず語らん<50>
現代の忘れ物

●作家 藤本義一

にっぽん人情小噺<39>
散歩

●落語家 三遊亭鳳豊

続・心語余滴<10>

 

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<157>

●写真家 浅井愼平

写真撮影・鶴田孝介

 





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