2009年2月号
独慎抄
体制の終焉に立ち向かう烈々たる意志
自らの手で乗り切る覚悟はあるか

 アメリカの社会学者I・ウォーラーステインは、フランス革命から続いてきた「地球規模のイデオロギー」であるリベラリズムが終焉を迎えたといっている。まさに、日本を含めた世界は大反転の時にある。このような体制が大きく変わる時代は、日本の歴史上にも何度か現れている。その最たるものが、幕末から維新にかけてである。佐久間象山や吉田松陰、坂本龍馬らは、時代が変わることを敏感に受け止めて、激しい好奇心を持ち、自らの手で大反転の扉を開ける覚悟を決めた。この意志がなければ、リベラリズムなき後の価値を探すことも、その社会を生き抜くこともできない。
【特集】
『新・大反転時代到来!』
【主筆対談】旧都は荒れ果て新都いまだ成らず
●作家 五木寛之
●本誌主筆 井原甲二
覚悟の時代に生きる日本人!

 さながら地獄絵のすさまじさの様相を呈してきているといっても過言ではない現代日本社会だが、問題はわれわれ日本人が、いまの現実がごく日常生活の一部として認識し、すべてを瞬時に風化させていくことにある。ここに底知れぬ深い闇がある。
 今日、自由主義、資本主義そして社会主義というフランス革命以来200年の幻想的構造が崩壊し、500年に1度ともいうべき大変革期を迎えている世界構造とわれわれ日本人。
 約800年前、貴族政治から武家政治へという政治的大変革期の風を敏感に感じ取った平清盛は、1180年福原遷都を断行したが、事は思うようにはかどらず失敗に終わった。
「旧都は荒れ果て新都いまだ成らず」
 これは、その有様に慨嘆した文人の言である。
 200年続いて荒れ果てたリベラリズム。われわれが探し求める「新都」は何処(いずこ)にあるのか。近現代の人間圏が持ち続けた幻想を超える新しい世界の在り処と21世紀に生きるための覚悟を考える。


中世史で読み解く現代のチェンジング
関係性の崩壊と退歩する社会の実相
●愛知大学教授 山田邦明
現代社会は飢えない中世

 政治家は身銭を切って政治を運営し、百姓は税金を米や糸といった現物で納め、日常は飢饉と隣り合わせ。平安時代後期から戦国時代を含む中世は、一見すると我々とはかけ離れた時代に思える。がしかし「現代は飢えない中世」なのだ。個人の幸福に重きが置かれ、好き勝手な生き方をする現代社会は、飢饉や戦乱の中で刹那的な人生を送っていた中世に近づいている。そして、社会体制を支える人間関係さえもが崩れ始めたことにより、今まさに不安定さが生じ、新しい体制へ変わる大きな転換点にきているのだ。
大変革時代が「異」の逸材を生む
−信長・秀吉・家康にみる逸材の条件
●歴史学者・静岡大学教授 小和田哲男
大転換時代が要請する「異」の人材とは?

 われわれがこれまで経験したことのない大変革のときが訪れている。
 フランス革命以来のスローガンであったリベラリズム(自由主義)が、ついに飽和点に達し、これまでの世界構造、システムが急速に崩落していくかのような様相さえ呈している昨今である。
 この未曾有の大変革はあまりにもドラスティックで、これまでの前提に依存して生きる人々には激痛と暗黒の不安以外のなにものでもないはずであろう。
 しかし、かつてわが国の歴史の中にも、現代社会が直面する大変革のときと同様の時代が幾度かあった。中でも、150年に及ぶ戦国の世から泰平の世への構造転換を、劇的に成し遂げた織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人は大変革時代の逸材として特筆される。彼らは、それまでの前提を覆す「異」の発想と行動によって、大変革の中から新しい時代を拓いていった。信長・秀吉・家康が求めた世界観、そしてアイデンティティ、そして志は、大変革の時代が要請した逸材の条件そのものであった。激痛と暗黒の不安に喘ぐ現代のわれわれが深く学ぶべき、彼らが織りなした歴史の本質について聞く。


“狂”走る−龍馬・西郷・大久保、それぞれの維新−
●歴史家・東京大学教授 御厨 貴
「異」の視点と「狂」の行動力が歴史を拓いた!

 今から約150年前。幕末に現われた先人たちの「異」の視点によって日本のネーションステート(近代国家)への道は切り拓かれた。彼らはそれまでのものとは違う「異」の視点と、それをやり遂げる凄まじいまでの「狂」の行動力を持ち合わせていた。
 柔軟な考え方と先見の明を持った坂本龍馬、「徳治政治」を掲げ、日本のナショナル・アイデンティティの土台をつくった西郷隆盛、そして、実際に日本の近代国家の制度、組織をつくっていった大久保利通。それぞれが近代国家としての日本をつくりあげるために、狂的なまでの信念をもって事に当たっていった。三人にとっての維新、また、現在日本が置かれている状況、今後どうすべきかを歴史家であり政治史家である御厨貴氏が語る。


自由と民主主義を超えるもの
−アメリカニズムの幻想から脱却し日本的価値を賦活させよ
●社会経済学者・京都大学大学院教授 佐伯啓思
自主独立国家へ変わるチャンス

 アメリカの理念である「自由」と「民主主義」に、戦後の日本は依存してきた。それが自分たちの自然観、社会観、美意識といった価値に適合しているかどうかの検証もなしに。サブプライムローン問題によってグローバリズムが幻想だったと明らかになった今も、アメリカニズムから抜け出せない日本に危機を感じる国民は少なくない。今このときを、日本的価値を軸とした社会の構造へと大反転し、本当の意味での自主独立の国家をつくるチャンスと位置づけることができるか。


【師弟対談】
緊張感と勝負して生きる
●中日ドラゴンズ投手 山本 昌
●教育実践『響の会』会長・日本公文教育研究会子育て支援センター顧問 角田 明
200勝投手と「鬼」先生のプロ意識

 プロ野球のピッチャーも教育者も、常に緊張の中で相手や生徒に向かい合う。緊張をなくそうとしたり、緊張していないふりをしても、決してうまくいかない。緊張している自分を認めて、緊張の中に積極的に入っていくくらいの気持ちでいるほうがうまくいくし、成長もする。人生そのものが緊張の連続で生きていくということにほかならない。野球だけではないものが結び付ける師弟関係。「プロへ行け」と勧めた恩師が「4年間は会わない」と言い放ったのは、なぜなのか。


【特別インタビュー】
人生は虚実まるごと愉しんで
−人は人生の中でぴたりとくるときに文学と出会う
●作家 田辺聖子
おせいさんが教えてくれる人生の愉しみ方

 ときには虚と実をとり混ぜながら人と向き合い、おしゃべりを心底面白がって、人生の「お芝居」を愉しむことが長い人生には大切。そんなに難しいことじゃないの、それを教えてくれるのが文学だと作家・田辺聖子氏は語る。そして、人は誰でも自分を映す鏡となるような文学に出会える時がある。そういう物語を自分の中に取り込んでおくと、いろいろな考え方ができるようになる。それはまさに、“おせいさん”の人生を愉しむ術でもあった。

【好評連載】
TAWAMURE─photo Ryojinhisho 2 ●写真家 大橋 弘
RINGО白書<8>
RIGHT(秩序)・その1
−社会をつくる女性の力
●一般社団法人「日本家庭教育再生機構」
 理事長 長田百合子
木下久雄の「ゴルフ・実践人間学」<10>
人の章 努力編
尾崎将司 時代を変えた男の飽くなきプロ魂
●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦
いのちの泉<14>
ドギーバッグと残り物
●宗教学者 山折哲雄
時空の旅人<13>
北緯四五度、厳冬の町に佇む
●生物学者 長沼毅
シュトゥットガルトの空から<特別篇>
古き良きドイツがあった−二人の巨匠と栄光のベルリン・フィル
●作家 川口マーン惠美
二十世紀最後の武士(もののふ)外交官
加瀬俊一とその時代<13>
●外交評論家 加瀬英明
高橋史朗の第三の教育論<68>
「全国学力テスト」公表の是非を考える
●明星大学教授 高橋史朗
文明の新地平<25>
成長神話の終わりとハンチントンの死
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
黙さず語らん<49>
孤独と孤立
●作家 藤本義一
にっぽん人情小噺<38>
関取
●落語家 三遊亭鳳豊
続・心語余滴<9>
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<156> ●写真家 浅井愼平




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