2008年9月号

独慎抄

存在の起点、自由なる個性の源泉 
この風土に暮らす日本人とは何か

 日本はこの地形や四季のおかげで、水や風や森や湿度を有す半面、暴風や大雨にも見舞われる。こうした風土的な二面性・二重性が日本人の性質をも形成していく。どれほど無意識のところで風土が影響を与えているのか、そもそも風土とは私たちにとってどういう存在なのか。人間の存在を風土という根源的なところから捉え直す。

 

【特集】
風土と日本人

日本文明の可能性−風土が生んだ心の形
●静岡文化芸術大学学長 川勝平太
日本人の特殊性とは何か


 日本の風土で培われてきた心の形とはどのようなものなのか−。「文明の海洋史観」でユニークな日本文明論をうち立てた川勝平太氏が、比較文明論的な観点から「日本文明」の心の形に迫る。


「鎮守の森」という人類の遺産
●(財)地球環境戦略研究機関・国際生態学センター長
 宮脇昭
世界でいちばん木を植えた男からの警鐘

 80歳になった今なお世界各地で精力的な植樹活動を行う植物生態学者・宮脇昭氏。それは本来その土地に生えるべき樹木を見分け、土地本来の森を取り戻すことにある。
 人間の歴史は自然破壊の歴史と言うこともできるが、日本人はその一方で、土地本来の森を残すという叡智を伝えてきた。絶滅の危機を回避するカギは、私たち日本人の手に委ねられているのかもしれない。

 

風と暮らした人びと
●日本地理学会元会長 吉野正敏
自然現象を精妙に捉えた万葉人


 風には季節風、台風など大きなものから、山越え気流や陸風、谷風といった地形によって引き起こされる中規模のもの、そしてビル風、すきま風などがある。四方を海に囲まれ、起伏に富んだ地形からなる日本列島は世界に稀な「風の宝庫」でもあるという。自然の恵みであると同時に生活を脅かす存在であった風と日本人はどう向き合ってきたのかを、「風博士」として知られる気候学者・吉野正敏氏が語る。


大地の声に耳を澄ます
●地震考古学者 寒川 旭
大地は揺れながら日本を育んだ

 地震大国・日本の地下は活断層だらけである。活断層とは岩盤の傷のこと。太古からの地殻変動によって地面が隆起・沈下してこの日本列島の姿は生み出されたわけだが、列島の内部は傷つき、地震の発生しやすい場所に住んでいるのが私たちなのである。現代は、快適さと安全性を求めてビルを建て、高速道路を作り、乗り物を走らせ、整然とした街をつくるが、いざ大地震となると、ビルや高速道路や乗り物や街が、災害をより大きなものにしてしまう。そういう二面性の中で生きているのだ。しかし、一方では、地殻変動がもたらした自然の地形や恵みも見逃せない。富士山をはじめとする山々の稜線美、静寂な湖沼、激しい渓流、聳え立つ岩壁と滝の飛沫……それらが日本人の感性に与えたものは計り知れないだろう。地震は避けられない。だとすれば私たちは地震に強い国民になるしかない。


刀と風土−鉄の願い、師の願い
●刀匠 上林恒平

歴史的風土が織り込まれた刀をつくる

 刀は、日本特有の風土の中に育まれた鉄と火と水が鍛えられることによって生まれる。刀匠は、脈々と受け継がれる歴史的風土を鉄の中に凝縮していくのである。そのとき、鉄が鉄を超え、透き通った青き光を放つ。新渡戸稲造は「武士道はその表徴たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である」と言ったが、武士が精神の昇華を自己存在の本源としたその刀の「味わい」「風景」を、刀匠・上林恒平師は現代においても表現したいと考えている。それは、鉄が刀になることを願っているのと同じように、師匠であった人間国宝の故・宮入行平師が願ったことでもある。


家のつくりは、夏をむねとすべし
●生活史研究所主宰・昭和のくらし博物館館長 小泉和子

風土に根ざした暮らし

 兼好法師は『徒然草』の中で「家のつくりやうは、夏をむねとすべし」と記している。鎌倉時代にはすでに高温多湿な日本の気候に適した家づくりがなされていたというわけだ。さらには、季節や目的によって、部屋の装いを変え、空間を自在に操る知恵を日本人は身に付けていた。
 暮らしの視点から衣食住の変遷を研究してきた小泉和子氏が語るように、季節を感じつつ、その特徴との折り合い付けてきたこのような暮らしの中にこそ「生きる喜び」があったのではないだろうか。


木とともに生きる
●棟梁 石原良三

豊かな感性を育てた伝統的日本家屋

 ふすまや梁・柱、壁が夏の湿気を吸い、秋にはそれを吐き出す。伝統的な日本家屋は、高温多湿の日本の風土にじつに適ったものだった。夏は風が家を通り抜けるように南に縁側を配置し、冬は西風で焚きものをして、布団で暖を取る。東西に木を植え、朝日、西日を遮り、障子に映る木々の影や梢に止まる鳥の姿、鳴き声を楽しんだ−。
 感性豊かな日本人に伝統建築は欠かせないと、頑なにこだわり続けてきた石原良三棟梁の、目から鱗のメッセージ。

【好評連載】

 

RINGО白書<3>
教育は菜大根をつくる如く

●NPО「家庭教育再生機構」
 理事長 長田百合子

プリンシプルからの視点<4>
地方の医療を崩壊させた失政

●日本学士院・ラホイヤ
 アレルギー免疫研究所名誉所長
 石坂公成

木下久雄ゴルフの「ゴルフ・実践人間学」<5>
天の章 気力編
青木功─世界を制す「守りのゴルフ」

●日本プロゴルフ協会(PGA)理事
 木下 久雄
●コーディネーター
 ジャーナリスト・植田剛彦

二十世紀最後の武士(もののふ)外交官<8>
加瀬俊一とその時代

●外交評論家 加瀬英明

いのちの泉<9>
二都逍遥−歴史を歩く楽しみ

●宗教学者 山折哲雄

時空の旅人<8>
白夜のサンクトペテルブルク

●生物学者 長沼毅

シュトゥットガルトの空から<9>
ヘビースモーカーと嫌煙家

●作家 川口マーン惠美

現代養生訓<9>
仲秋の名月と五行理論の健康学

自然美システム研究所代表 萩原俊雄

高橋史朗の第三の教育論<63>
今日の「いじめ問題」にどう対処すべきか(下)

●明星大学教授 高橋史朗

文明の新地平<21>
小坂銅山の近代とその超克

●評論家・麗澤大学教授 松本健一

黙さず語らん<44>
目標と目的

●作家 藤本義一

にっぽん人情小噺<33>
腹話術

●落語家 三遊亭鳳豊

未知なる輝き<43>
「縁」を紡ぐ

●染織家 清水繭子

続・心語余滴<4>

 

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<151>

●写真家 浅井愼平

【歴史エッセイ】

 

日本の名山 その歴史と文化<100>
羊蹄山 道南の名峰蝦夷富士

●作家・文芸評論家 高橋千劔破

表紙 撮影・宮島正信

 





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