2008年2月号
独慎抄
理想としてきた価値基準は幻想ではないのか

理想としてきた価値基準は幻想ではないのか

 近代は民主・自由・平等・平和といった理念を掲げてきた。進歩・発展という美名もそこに付加された。そして、際限のない欲望の肥大と所有を生んだ。ここには、地球も人類も無限に続くものという大前提が横たわっている。俯瞰的・透視的に現代社会を見れば、その前提がいかに危ういものであるかが明らかになる。本質的な豊かさを実現するために、「我」という視点を「我々」へとシフトさせ、現実的な大前提を確立すべきときにきているのではないか。
【特集】
近現代の前提を疑え
【対談】
有限への視点転換
●東京大学大学院教授 松井孝典
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
右肩上がりの幻想は100パーセント終わった!
 約1万年前に人間圏が始まったときから、人類は生き残るための食糧やモノの豊かさを求めて指数関数的な右肩上がりの消費循環を繰り返してきた。特に近現代における人間圏は、人類の際限なき物質的な欲望を満たすべく、その内部に驚異的な駆動力を持ち始め、地球資源を消費し続けてきた。
 そして21世紀の今日に至ってその最終章がはっきりと見え出してきた。それは、人類の際限のない物質的欲望を満たす生き方の終焉を意味する、深刻かつ重大な現実でもあった。こうして、20世紀まで続いた無制限な欲望の達成を是とする近現代の大前提が崩壊しつつあるいま、我々はいったいどこに行こうとしているのか。
 アストロバイオロジーの権威であり、宇宙からの俯瞰的観点から現代文明を問い直す松井孝典氏と、文明の本質を風土の違いから読み解いて、近代文明を超えようとする松本健一氏が、21世紀の新たな前提を探る。


キャッシュ依存型社会は幸福をもたらすのか 
●構想日本代表・東京財団会長 加藤秀樹

一人ひとりが生活と思考を変えることから未来は拓かれていく

 私たちの生活をつぶさに見ていくと、かつての日本では、自らの手足で当たり前のようにやっていたことを、いかに手放し、他に委ねているかが分かる。そこに介在するのは、お金=キャッシュである。私たちがお金と引き替えに手に入れたはずの手軽で快適な生活とはいったい何だったのか─。あらゆる領域を視野に入れた政策提言活動を行い、新たな時代の構想に情熱を傾ける加藤秀樹氏に、近現代の限界と、それを乗り越える視点を聞く。


両手をなくして、ありがとう
●画家・詩人 大野勝彦

何もできないという前提に立って

 農機具に両腕を巻き込まれた45歳から、義手で筆を持ち、絵や詩を書き続ける。何もできなくなったことによって、「すべてがある」という幸福感を得た。その幸せに気付くためにこれまでの人生が用意されていたのだと思えたとき、「すべてが正解だった」と悟った。絵を喜んでもらいたい、詩を喜んでもらいたい。人の喜びが自分の喜びになった大野勝彦さんの人生の第二幕は、両手がない、何もできないという前提から始まった。


根を張る暮らし 近代化・効率化・都市化を超える理念「百川海に納む」

そこに暮らすことの意味

 田舎だからお金や設備やイベントを他から持ってきて活性化させるしかない、という発想ではなく、田舎にいるということ、そこに生きているということの意味を深く掘り下げ、ここで何ができるかを前提とする。そのとき、自分の心が留まった場所がふるさとになる。暮らしとビジネスが同じ場所でできるという根の張り方が、人との関係も、環境へのかかわり方も、ビジネスへの取り組み方も変えていく。


危うい現代の表層的エコロジー
●森林ジャーナリスト 田中淳夫

環境問題は感情問題とすり替えられている!?

 現在、地球規模の深刻な問題と化している環境問題。だが、近来言われ続けているエコロジーは、市場原理を前提としたブームになって、問題の本質からは大きく乖離したものになっている。環境破壊の前提となっている本質的要因をほぼ検討もしない行政やマスコミも存在し、その扇動に免罪符を求めるかのように飛びつく人々もいる。ファッション化し、ライフスタイルとして取り入れられつつある「エコ」の裏側にはいったい何があるのか。


「生きる」という根源的な前提が忘れられていないか!
●経済学者・東京大学大学院教授 神野直彦

幸福になるための手段が目的化した社会

 人類は経済学の語源を「エコノミア(生活する技術)」へ求めた。暮らしの中でいかにして幸福を得るかを探る経済学の観点から見ると、幸福の実感を得られるような社会作りになっているかどうか疑わしいのが現代である。人が自分の人生を死の瞬間まで充実させていくことを前提とした手段が講じられなければならない。手段や方法が目的化している現代社会への警鐘。

【新連載】
二十世紀最後の武士(もののふ)外交官 
加瀬俊一とその時代
●外交評論家 加瀬英明
【好評連載】
いのちの泉<2>
「自殺は悪くない」は日本文化か?
●宗教学者 山折哲雄
時空の旅人<2>
虹色の七変化
●生物学者 長沼 毅
シュトゥットガルトの空から<2>
責任の所在
●作家 川口マーン惠美
現代養生訓<2>
東洋医学の歴史と原理
●自然美システム研究所代表 萩原俊雄
高橋史朗の第三の教育論<56>
日本一の実践モデルを埼玉から
●明星大学教授 高橋史朗
これが解決の決め手!長田百合子の相談室<最終回>
嫁に出した娘、実家で生活すると言って聞きません
●エデュケイションライター
 長田百合子
文明の新地平<14>
「民主」は文明の「最高かつ最終的」な理念か
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
体をひらく、心をひらく<14>
性と身体智
実践入門講座
感情を「感情力」に
野口整体 気・自然健康保持会
 金井とも子・金井省蒼
魂の独立宣言<19>
漂流する学校論
●表現教育者 宮川俊彦
黙さず語らん<37>
漢字を考える
●作家 藤本義一
学び舎の窓から<21>
活きた組織が「人」を育てる
●教育実践『響の会』会長
 角田 明
にっぽん人情小噺<26>
同窓会
●落語家 三遊亭鳳豊
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<144> ●写真家 浅井愼平
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<93>