2007年12月号
独慎抄
人の世は常に男女の物語
男は女のために、女は男のために


 中国山東省に伝わる「チャンランとティンシャン」という夫婦の物語を紹介する。妻を捨てて出て行ったチャンランと、信じて待ち続けたティンシャン。最後の最後にチャンランは自分の愚行を悔いて竈(かまど)の中に閉じこもり、後には竈の神として語り継がれることになるが、人生最大の後悔を自らの生きる糧となし得たときに生きる意味が実感できることを教えようということか……。いずれにしても、男は女のために、女は男のために、という言い方は真理である。それは生物学的にも生命の誕生の瞬間から始まっている物語である。
【特集】
男と女 性という豊かさ
おばあさんが人類を救う!?
●生物学者 長谷川眞理子

ヒトの女性だけが長寿になった意味

 生物学から出てきた理論に「おばあさん仮説」がある。霊長類のメスが繁殖能力を喪失後に数年しか生きられないのに対して、人間の女性だけが閉経後何十年も生きているという。この奇妙な現象に対して、人間の女性は、子育ての知恵や経験を娘や血縁者に伝え、サポートすることで繁殖成功度を高めることができたからではないかという説である。人類の中でおばあさんが果たしてきた役割を今一度確認しつつ、ジェンダー論の問題点や男女が共同する社会を生物学的見地から展望する。


EROSー成熟の時
●フォトグラファー 山崎エリナ



セクシャリティを楽しむ
●マタニティ・コーディネータ 大葉ナナコ

自尊感情を高め、相手を深く理解するセックス

 一組の男と女が体を重ね合わせてセックスをする─。この行為によっていのちは続いてきたのであり、私たち自身の存在はそれなしにはあり得なかった。そして人間は、繁殖の手段という生物的要素を超えて、セックスをコミュニケーションの手段として位置づけもした。しかし、それらは本当に豊かなものになり得ているだろうか。
 出産を「誕生」という視点で捉え直して、女性や子どもたちから自尊感情を引き出す活動を行っている大葉ナナコさんに、セックスの新しい捉え方を聞いた。
華ひらく身体美
●ベリーダンサー 海老原美代子

年齢を重ねて醸し出す女性の体の美しさ

 地中海沿岸部を発祥とするベリーダンスは、世界各地で微妙にスタイルを変えながら広がっていった。腰を振動させる動き、骨盤を使った滑らかなうねり、激しい肩の振りといった動きを踊りとして完成させるためには、高度なテクニックが要求される。40歳のとき、腰を壊すアクシデントに見舞われたことを機に、東西の身体技法も取り入れて、日本スタイルともいえるベリーダンスを編み出した海老原美代子さんを写真と共に紹介する。



XとYのドラマー多様性に満ちた性決定メカニズム
●九州大学大学院医学研究院教授 諸橋憲一郎

生命は多様性の中で生きている

 性差という視点から生物を捉えていくと、生物がどれほど多様な性決定の仕組みを持っているかが分かってくる。哺乳類のXとY染色体ではYの上に精巣をつくる遺伝子SRYがあり、これが働いてオスになるが、トリの場合はZとWという染色体のWの上の卵巣をつくる遺伝子が働いてメスになる。つまり、性決定遺伝子が異なる。ウミガメやワニは産卵した場所の温度によって、その卵がオスかメスかに分かれる。温度が高いとメス、低いとオスになる。集団で暮らす魚の中には、体の一番大きなものがオスになる習性がある。回遊魚の中には、回遊している間に性が変わるものもいる。ツチガエルはXY型からZW型へ性決定の仕組みが変化している。SRYを捨ててしまって別の性決定の仕組みを持つトゲネズミもいる。性の決定メカニズムは多様性に満ちている。生命は多様性の中で生きていくものだと思える。


脳の「壁」はあるのか?
●人間総合科学大学教授 新井康允

男女の行動や考えは脳の違いの影響から!?

 数年前、ベストセラーになった『話を聞かない男、地図が読めない女』。個体差を念頭に置きつつも、実際に男女の脳の構造の違い、使い方の違いから、それぞれの特徴的な性差が生じることが実験によって実証されているものもある。
 生まれ持ったものが異なるならば、まずその違いを知ることが相手を理解する第一歩となるのではないか。男脳・女脳の把握が、日頃疑問に思う異性の行動や考え方を解くヒントになるかもしれない。


好きになる“はたらき”
●東北大学大学院教授 山元大輔

有性生殖だから生き延びた生命

 オスとメスという性の違いは生命の誕生と同時に発生したのだろうか? 決してそうではない。進化の過程で、そうした性の違いを持つものが有性生殖という仕組みを得たことによって生き延びてきたのである。この有性生殖を確実に行うために精子や卵子の構造や機能がつくられてきた。さらに、遺伝子、ホルモン、フェロモンといった私たちが自覚しようもないものが「惹かれ合い」を演出する。しかし、自分が男性であるとか女性であると意識したり、男性や女性を好きになる脳のはたらきには、まだまだ未解明の部分が多い。「見た目」のような意外と単純なところで惹かれ合っているのがオスとメスなのかもしれない。その謎もまた生物の多様性の世界ならではのこと。


男への儀礼、女への儀礼
●民俗学者・佛教大学教授 八木 透

儀礼から見る男女の役割

 人間が成長する過程で、以前はいくつもの儀礼を経ていた。特に、大人や村社会への仲間入りを果たす成人儀礼においては、儀礼の特徴も男女で大きく違う。その違いからそれぞれにどのような役割が望まれていたかも見えてくる。また、民俗社会では「性」がいかに大らかに捉えられていたかも垣間見える。明治時代以前は、想像以上に庶民が自由恋愛を楽しめる環境にあり、その中でまた秩序も保たれていた。儀礼によって人生の秩序も保たれていた社会とそれを失った現在の社会。かつての習俗から我々が学ぶものがあるのではないだろうか。


「らしくあれば、ええのどす」
●岩崎峰子

クリアしながら磨いていくもの

 男らしさ、女らしさを身に着けようとすることが子どものころの躾や教育にとって、どれほど大事なことだったか。祇園で育った著者の実感として、現代の親が何もかも学校任せにしていることが、そうした大事な学びの欠如になっていると説く。「男と女はまあるい球体」だから互いの足りないところを補う関係なのだという。人生でクリアすべきことをクリアしないと死ねない。そうやってつらいこともクリアしていくことで、人間として、男として、女として磨かれていく。かつて芸妓として得た独自の人間学をもとに、そうした生き方の極意も語られる。
こいうた

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川底の百年鯉論
●表現教育者 宮川俊彦
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傘は伝統を拓く
●京和傘職人 西堀耕太郎
学び舎の窓から<19>
「選ぶ力」を付けてあげたい
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にっぽん人情小噺<24>
帰郷
●落語家 三遊亭鳳豊
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COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<142> ●写真家 浅井愼平
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<91>
桜島山
海上に屹立する活火山
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<最終回>
聖徳太子
●明治学院大学教授 武光 誠
表紙撮影 山崎エリナ




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