2007年11月号

独慎抄

上善は水の若(ごと)し
人間の本性と水の本性


 万物に恩恵を与えながら何ものとも争わず、皆が嫌がる下へ下へと下っていく。これほど柔弱なものはないが、堅強なものにも勝る。水とは、そのような最上の善なるものである。人間の本性も水のようなものであるのだが、我欲に振り回され利害得失に翻弄されている。一滴の水の本性に自らの本性を投影してみれば、倒錯した姿が明らかになる。

 

【特集】
水−四十六億年の循環誌

宇宙から俯瞰する「地球と水と人間」
◎一万年を経た「人間圏」はあと一〇〇年で潰える!
●松井孝典 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 監修

水を通して見えてくる人間の存在価値と危機

 そもそも、水はどこから来たのか。なぜ地球は「水の惑星」と呼ばれるのか。なぜ人類は今ここに存在できているのか。人類はいつまで存在し続けることができるのか…。水という視点を持って宇宙的に人間を眺めてみると、そうしたさまざまなことが明らかになってくる。地球に生命が存在し得た現実のすばらしさと同時に、人間圏というシステムがそれほど遠くない未来には地球上から消えてしまう可能性も見えてくる。地球が独自のシステムを持つ「智球」であることを理解し、新たな人間圏を構築すべきであるという命題が突きつけられている。

 
生命をささえる不思議な物質−水分子「へ」の字が生んだ奥深い物語
●生物学者・広島大学大学院生物圏科学研究科准教授
 長沼 毅

歌奇妙な振る舞いをする水の恩恵

 私たちのごく身近にある水。しかし、その正体は意外と知られていないようだ。水がありふれていた宇宙にあって、生命を宿した「水の惑星・地球」。
地球上に生命が次々と誕生し、種が繁栄するには「水」抜きには語れないが、この水は非常に奇妙な物質であるという。水の特異性から生命の誕生とそのいとなみに迫る。

 

宇宙生物学からみる生命の起源
●横浜国立大学大学院工学研究院教授 小林憲正

宇宙生物学から見た生命の起源

 クマムシという小さな虫をご存じだろうか。シダやコケの裏側に生息している小さな虫で、ゆっくりと水分を抜いてやると「不死身」になる。放射線を当てても液体窒素に入れても死なない。脱水状態では動かないが、水を与えてやると動きだす。水がいかに地球上の生命にとって不可欠な存在かということをその生態から知ることができる。これに対し、小林憲正先生は、地球だけでなく宇宙全体を見渡してみると、他の惑星には「水を必要としない生命」がいる可能性があるという。例えば、タイタンという土星の惑星には、メタンの海や雲があって水のように循環している。さらに生命誕生に必要な有機物やエネルギーも豊富にあるという。水という視点は、「生命とは何か」を根底から問い直す良い機会を与えてくれている。


「コラム」超海 hypersea−生物の陸上進出の秘密
●生物学者 長沼 毅

 生物は長い時間をかけて海で育まれ、陸上に上がってきたといわれる。循環を必須とする生命にとって、水が乏しく温度変化の激しい陸上は苛酷な環境であった。陸上生物が繁栄してきた過程には、乾燥という難敵をいかにクリアーするかという想像を絶するいとなみがあったはずである。その秘密を、生命体のうちに「海」を宿す、生物から生物へネットワークのように移動する水、といったまったく新しい発想で読み解く。


「ビジュアル」The Jellyfish 海月世界


海といのちの不思議に出会う−水族館のはなし
●新江ノ島水族館館長 堀 由紀子

休日には家族で水族館に行こう

 平凡な主婦であった堀由紀子氏は、34歳の若さで義父の遺志を継ぎ、単身、経営難の旧江ノ島水族館に乗り込んだ。爾来30年、ユニークなアイデアと型破りの経営で見事に再建を果たし、世界でも珍しい女性館長となった。エデュテインメント型水族館・新江ノ島水族館の建設では、神奈川県所有の土地に民間資本で所有・運営を行うPFIを実現させた。そこには、その知的で優雅な容姿からは想像がつかないほどの深い知略と群を抜く行動力があった。
 …海と生命に対する限りない愛情が、その深い知略と行動力のエネルギー源であった。「人間は、海なしには生きられません。この“海という生命の源を追求する”部分を、私はいま一所懸命やっています」という堀氏に、海を通して見えてきたいのちの本質、そして経営の本質を聞く。


日本民族の命運と水
●国際日本文化研究センター教授 安田喜憲

文明という視点で水を捉えたとき

 生活に必要な水を蓄えているのは森。それを利用し、再び同じように利用できる水の循環を守って生きている民族と、そうではない民族がある。前者は稲作漁撈型の文明を持つ人々、後者は畑作牧畜型の文明を持つ人々である。その違いが生じたのは地球の気候変動と密接な関係がある。しかし、このままでは森も水の循環も崩壊してしまう。その最たる原因は、「所有」という概念が世界の多くの国では水にまで及んでいるからだ。その動きは日本にも侵入してきている。日本人の飲料水の源である森が外国資本に抑えられてしまったとき、果たして私たちは生き残っていけるのか……。


水の訓え

1.主体的でありながら他と同調できる
2.形は自在に変えながらも本質は変わらない
3.一度勢いを増すとその力は止まらない
4.しずくは石にも穴を開けるが、一方では潤いを与えている
5.万物を清浄するはたらきは、すべてを受容することの表れ
6.壮大なスケールで循環し、天地をつないでいる


「水戦争」は回避できるか
●河川工学者・東京大学名誉教授 高橋 裕

世界の水不足に日本も関わっている!

 「水」を巡っての争いは、人類史上あらゆる時代において行われてきた。しかし、今後予想される急激な人口増加や生活水準向上による水使用量の増加や水質汚染でこれまで以上の水不足になることが考えられる。生死にかかわる問題であるがゆえに、水を原因とした「水戦争」はいつ勃発してもおかしくない。もちろん、日本も他人事ではない。現在、深刻な水不足はないものの、私たちは多くの水を他国から輸入している。地球規模で「水問題」を考えなければいけない今、水に関する現実を高橋裕氏に聞く。


「水源から蛇口まで」 東京都水道局「安全でおいしい水プロジェクト」の取り組み
●「安全でおいしい水プロジェクト」技術監督 尾崎 勝

「東京の水道水はまずい」。そんな人々の先入観を払拭しようと、東京都水道局が立ち上がった。彼らの水道への熱意はやがて国をも動かすようになっていく。


神々は海を母とした
●学習院大学名誉教授 吉田敦彦

神話に込められた水の思想

 人は必ず死ぬという宿命を負って、それでも生きていく。その一見矛盾するような「生」の意味と自らの本分を見いだす支えとなるのが神話である。なぜなら、そこには「そもそも」があるからだ。日本の神話に限らず、世界の神話の中には、水が生きるために重要な役割を果たしていたことが描かれている。古代の人々が実感し残そうとした水の思想を現代人はどこまで受け取ることができるのか。


知ってトクする! ◎水に関する豆知識

【好評連載】

 

高橋史朗の第三の教育論<53>
高校家庭科教科書の検証2

●明星大学教授 高橋史朗

これが解決の決め手!長田百合子の相談室<10>
教師生活に終止符を打ちたくなりました

●エデュケイションライター
 長田百合子

文明の新地平<11>
アルカディアかユートピアか

●評論家・麗澤大学教授 松本健一

体をひらく、心をひらく<11>
お腹の赤ちゃんと気で繋がる
実践入門講座
体の癖は心の癖

野口整体 気・自然健康保持会
 金井とも子・金井省蒼

魂の独立宣言<16>
心眼論

●表現教育者 宮川俊彦

黙さず語らん<34>
趣味の必要性

●作家 藤本義一

学び舎の窓から<18>
だから「評価」は難しい

●教育実践『響の会』会長
 角田 明

にっぽん人情小噺<23>
小学生に落語

●落語家 三遊亭鳳豊

未知なる輝き<35>
静かでしたたかな闘志

●体操選手 水鳥寿思

【グラビア】

 

COSMOGRAPHY

●画家 千住 博

日に晒され風に吹かれ<141>

●写真家 浅井愼平

【歴史エッセイ】

 

日本の名山 その歴史と文化<90>
八幡平
伝説秘めた高原

●作家・文芸評論家 高橋千劔破

人生の指針を残した偉人たち<31>
道元禅師

●明治学院大学教授 武光 誠





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