2007年8月号
独慎抄
「くに」を見ていた竜馬−「船中八策」に込めた近代国家の構想 丸くなんかなれない!

 幕末、大政奉還によって新たな日本の姿を建白書として示した「船中八策」には、議会や憲法の制定、軍備・外交・国際経済の基本的スタンスなどが織り込まれていた。坂本竜馬や後藤象二郎らがこれを表して140年。世界へ開かれた近代国家となるために必要な体制は、すでにそのとき示されていたのだ。彼らを維新の大綱の策定へと向かわせたものは、「丸くとも一かどあれや人心」だった。丸くなれなかった「一かど」が推し進めた近代国家だったのだ。
【特集】
「くに」を考える
祖国−日本とパレスチナの間で
●ジャーナリスト 重信メイ

国境も民族も宗教も超えて

 「『難民』として生きることと、国籍をもった『国民』として生きることはまったく違います。国籍を得ることは、自分の力で自分の社会的地位や権利を得る手段になるからです。身分証明書一つがなければ何もできない現実があるのです。」
 28年間国籍がなかった重信メイさんが日本国籍をとったのは2001年。「母親と家族の助けになりたい」と思う気持ちから、どんな過酷な状況が待ち受けていても耐えていこうと覚悟をしていた。アラブの大学で国際政治学を学び、現在ジャーナリストとして活躍中の重信メイさんに、彼女の半生と中東問題について聞いた。



祖国の独立! −台湾の独立主権国家への闘い−
●台北駐日経済文化代表処代表 許 世楷
●評論家 金 美齢

「一つの中国」という虚構と台湾独立の道

 台湾独立運動の同志である許世楷氏と金美齢氏。ともに同志として台湾独立運動に参加したため30年以上も祖国・台湾の地を踏むことが叶わなかった。
 台湾を愛し、台湾の独立に命を燃やし、異国の地で生きるしかない過酷な運命を選択した2人は、どのような想いで祖国・台湾を見つめ、また日本という第2の故郷で生き抜いたのか。2人の命を懸けた壮烈な闘いは、祖国・台湾に民主化の道をもたらし、独立主権国家・台湾の実現という大きな果実を結ぼうとしている。
「一つの中国」という虚構を超えてネーション・ステート・タイワンの実現を目指す2人だからこそ話せる台湾民主化と独立へのシナリオ。隣国台湾の民主化、独立を通して考える「国家・民主主義・独立の意味」。
それでも帰りたかった国
●中国残留婦人 栗原貞子 ●映画監督 東 志津

生き方としてできないこと「くに」の在り処を「母」に見る

「お腹の子を守るために」中国で結婚をした。終戦後、満州に残された1人の女性、栗原貞子さんの決断だった。「選択」したのではない。それしか道はなかった。だが、「自分の意思で残った」と見なされ、残留婦人は祖国である日本に見捨てられてしまう。それでも、日本への思いは断ち切れない。ようやく国に帰ることができたのは日本を出て36年も経ってから。
 そんな栗原さんを主人公にドキュメンタリー映画「花の夢」を撮ったのが東志津さんである。彼女が栗原さんから感じたのは、何としてでも命を繋いでいこうとする「母の強さ、女の強さ」だった。


島の唄
●八丈太鼓伝承者 奥山熊雄

1日の疲れを癒す八丈太鼓の魅力

 太鼓はお祭りのときだけだと思っている人は、ぜひ、八丈島の熊ちゃんの太鼓を聞いてほしい。熊ちゃんは、90年以上も島で生活してきた、八丈太鼓の伝承者。その太鼓の音は、長時間聞いていても心地いい、「子守唄」になるような太鼓。島の生活の中で生きてきた太鼓は、人々の心に染み込み、今でも島の鼓動を伝えている。


ふるさとは自己の中にある−啄木の「望郷」と近代日本人の「パトリ」
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
自己の存在の「根」はどこにあるか

 石川啄木は、「ふるさと」をうたった歌人・詩人として知られるが、彼の都会への「あこがれ」や先鋭化した言葉の獲得を目指した姿は、明治以降の日本が西洋にあこがれ、近代化を目指してきた姿と重なる。啄木は「故郷喪失」の敗北感にうちのめされ、苦悩したが、これもまた近代日本人の自己喪失に揺れる精神史を象徴している。しかし、啄木が最終的に大衆に受け入れられた理由は、個的なものの追求を脱して、啄木の内なる大衆との共感、内なる「物語」を獲得したからだ。自己の存在の「根」の場所に気づいたとき、自己喪失に揺れる近代日本人の進む道が明らかになる。


いくつの「くに」を持っていますか?
●中部大学学術顧問・社会学者 加藤秀俊

多重的に存在する「くに」

「あなたの“くに”は?」と聞かれれば、自分の故郷を思い浮かべる日本人は少なくないだろう。元来「くに」とは、天に対する地の意味を持っていた。そこから、生まれ故郷や日本国の意味も持つようになる。自分が暮らしている区や市を底辺に、そこから都道府県、国と、それぞれが積木のように繋がり、「くに」が成り立っている。もし自分の故郷である「くに」に対する関わり方を変えれば、それは積木の最上部にある世界という「くに」をも変える力になるかもしれない。


ブリコラージュな共同体へ
●建築人類学者 佐藤浩司

個人の側から考える<くに>

 現代社会において「国を考える」といったとき、個人と社会の接点と見出そうにも見つからないという現代人は多いに違いない。だったら、一人ひとりの構成員である個人に焦点をあてて、見ていくという方法もある。ホームレスの人、在日の人、障害のある人、無国籍の人……日本という空間の中に住んでいる、一人ひとりをつぶさに見ていけば、どんな社会が理想なのかが見えてくる。

【好評連載】
高橋史朗の第三の教育論<50>
<特別対談>教育再生会議は何をなし得るのか
 昨年9月、教育改革を政策の柱に掲げて発足した安倍内閣。それを担う教育再生会議が何を目指し、どう変えようとしてきたかを担当補佐官の山谷えり子さんに教育学者の高橋史朗が迫った。事実の曲解や誤報等、マスコミの現実も浮かび上がってきた。
●ゲスト 内閣総理大臣補佐官
 (教育再生担当) 山谷えり子
●明星大学教授・埼玉県教育委員会
 委員長職務代理者 高橋史朗
お墓参りは楽しい<最終回>
縄文人の墓
 青森・三内丸山遺跡の縄文人の墓は、ほとんど野原と分からないようなものだった。「それでいいのだ」と筆者は思った。そうやって墓が風化して地球に還っていくように、死者の魂もまた千の風になっていくのだから……。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
これが解決の決め手!長田百合子の相談室<7>
モンスターばかりの世の中で子どもを育てる自信がなくなりました
●エデュケイションライター
 長田百合子
石坂公成「自由と教育を語る」<最終回>
日本の教育を再建するためには
●日本学士院会員・
 ラホイヤアレルギー免疫研究所
 名誉所長 石坂公成
文明の新地平<8>
「共感共苦」という法
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
体をひらく、心をひらく<8>
苦しみの連鎖を断ち切る
実践入門講座
身体感覚と自己の成長−その3・日本人の心を取り戻す「坐の生活」
野口整体 気・自然健康保持会
 金井とも子・金井省蒼
魂の独立宣言<13>
あぁ雑草蔓延論
●表現教育者 宮川俊彦
黙さず語らん<31>
ストレス増加に考える
●作家 藤本義一
学び舎の窓から<15>
教師が描く虚像
●教育実践『響の会』会長
 角田 明
にっぽん人情小噺<20>
修学旅行
●落語家 三遊亭鳳豊
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<138> ●写真家 浅井愼平
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<87>
白馬岳
大雪渓と雪形の山
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<28>
思想家篇<2> 吉田松蔭
●明治学院大学教授 武光 誠
●表紙写真 道岸勝一