2007年7月号
独慎抄
「農」の砂礫化がもたらす人類の衰退


 風土的な特質として「泥」の世界にいる日本人。その「泥」ゆえに「農」という営みがこれほど豊かになったことを思うと、日本には、この泥の世界が最適なのである。人のありようも、砂や石のようなところには生命力は弱い。そこで育まれるものに目を向けてみる必要がある。手間を苦とせず、泥の生命力に感謝しながら、一年の糧を得る。その確かさから乖離したとき、人は砂礫化する。
【特集】
農力主義
【特別対談】
山下泰裕の、「人づくり」
●柔道家・東海大学教授 山下泰裕
●明星大学教授 高橋史朗

教育再生に求められる視点とは

 「オリンピックに出場して、メインポールに日の丸を掲げながら『君が代』を聞きたい。そして、柔道の素晴らしさを世界の人びとに広げられるような仕事をしたい」
 中学2年の山下少年は「将来の夢」という作文にこう書いた。1980年のモスクワオリンピックでは政治的理由による日本の不参加で涙を飲むも、4年後のロサンゼルスオリンピックでは見事に夢を果たした。そしていま、柔道の心・日本の心を世界の人びとに伝えるために、年間100日以上を海外で活動する一方で、日本の子供たちのためにできることを担おうとしている。
 小渕首相の教育改革国民会議のメンバーであった山下氏と、中曾根首相の臨時教育審議会のメンバーであった高橋史朗氏が、安倍首相の教育再生会議の動向に迫った。



【特集】
農力主義
田んぼへ入ろう!
●俳優 永島敏行

頭ではなく手足で知る

 田んぼへ入る、ということは、自分の足を泥の中へ入れるということ。そこで田植えをするということは、自分の手を汚して食べ物を作ることの一部にかかわるということ。「農家はこうやって米を作っているんだ」ということを、想像ではなく体験として感じるということ。それが現代に欠けていることでもある。長野県小谷村の棚田は、永島さんと地元の農家の人たちが荒地を興して再生させたものでもある。その田んぼを仲介役として、生産者と消費者、農家の人と都会の人が集まる。
「食べ物は商品じゃない」
●「自然農」農民 美斉津育夫

生き方としてできないこと

 安易に食べ物を経済の論理に乗せていった結果、生産者にとっても消費者にとっても「本質」から遠く離れた世界が出来上がってしまった。そのことを憂えている一人の農民が語る農哲学。食べ物を作ることへの矜持。それは、自主的に生きることを手放さないという姿勢でもあり、人と自然に対する誠意でもある。「俺は野菜に値段は付けない」その言葉を象徴する生き方を、あえて農薬を使った単一野菜の栽培が盛んなところで肩肘張らずに行っている。

地の力、人の力−「見沼田んぼ福祉農園」という接点
異質を受け入れる「農」の心
 200人ほどの農園ボランティアが活動している埼玉県の「見沼田んぼ福祉農園」。都市近郊にあるこの農園は、都市と農村、自然と人間、障害者と健常者、若者と高齢者…。あらゆる多様性を持ち合わせた場である。
 日本の農業には、農薬散布や単一栽培といった効率化ばかりを図ってきた歴史がある。だが、それでは土地自体が持っている「地力」を奪ってしまう。元来、多様なものが多様なままにあってこそ、地の力が育まれていたのである。それは人間も同様ではないだろうか。


人間を歪める「農」の工業化
●聖泉大学教授 高谷好一

農地はなぜ工場になってしまうのか?

 世界の農業が、合理化と大量算出のために「工場」と化している中で、見本となるべき本来の農業の姿が日本にはかつてあった。江戸時代、鎖国によって国内自給を促進させ、環境に適した生産体制を整えた。社会が目指したがる発展型ではなく、資源が有限であることを前提とした循環型の農業スタイルは、人を歪めたりしなくてもいい、確実なシステムである。人間の何が農地を工場と化した原因なのか?


「持たない」という選択−スローライフは「引き算」から始まる
●環境活動家 辻 信一
農力は自分の中にある!

 必要ないものは買わない。なくすべきものはなくす。スローライフの基本的な考え方はいたってシンプルだ。電気ポットも、温水暖房便座もやめる。ベランダに3粒の種を植えてみる。植物の生長を待ち、愛する人と過ごす時間を大切にする。人生を楽しむために生きていると「忙しくしている暇はない!」という辻氏が語る「農」とは?

【新連載】
◎シリーズ「親と子の周辺」<1>
虐待−親子の間に何が起こっているのか
児童虐待が社会の片隅の問題ではなくなってきた。「虐待」というと、子どもに対して残虐な行為をすることと捉えがちだが、実際は、身体虐待、性的虐待、心理虐待、ネグレクト(養育放棄)など、子どもに対する「不適切な行為」の全体を指す。昨年度の児童相談所への虐待に関する相談数だけでも、統計を取り始めた15年前の35倍に当たる3万4千件にのぼった。相談数が増え続ける中で、現場で働く人々が目にした現実はいかなるものなのか。

 また、どう立ち向かっているのか。児童福祉司、保健師、養護施設の職員、そして虐待を受けた若者たちの姿を通して、現代家庭が抱える親子のあり方を問う。

【好評連載】
これが解決の決め手!長田百合子の相談室<6>
このままでは息子の引きこもりが定着してしまいます
●エデュケイションライター
 長田百合子
石坂公成「自由と教育を語る」<7>
アメリカの大学院の経営基盤
●日本学士院会員・
 ラホイヤアレルギー免疫研究所
 名誉所長 石坂公成
文明の新地平<7>
西洋文明の「力」と日本の開国
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
体をひらく、心をひらく<7>
いい女はこうしてつくられる
耐えることによって育つ「美」<2>
野口整体実践入門講座
身体感覚と自己の成長−その2・拠り所となる自己とは
野口整体 気・自然健康保持会
 金井とも子・金井省蒼
魂の独立宣言<12>
「本音は常に不謹慎」論
●表現教育者 宮川俊彦
黙さず語らん<30>
現代日本語の崩れ
●作家 藤本義一
学び舎の窓から<14>
教師が描く虚像
●教育実践『響の会』会長
 角田 明
にっぽん人情小噺<19>
ラスト・イニング
●落語家 三遊亭鳳豊
未知なる輝き<31>
身体表現の可能性を信じて
●振付家・ダンサー 伊藤千枝
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<137> ●写真家 浅井愼平
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<86>
生駒山
歴史伝える国境の山
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<27>
思想家篇<1> 本居宣長
●明治学院大学教授 武光 誠
●表紙写真 道岸勝一




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