2007年6月号
独慎抄
誰の前にも道はない−我より古(いにしえ)を作(な)す


 生きるという「この遠い道程のため」
 仕事や生活を人生にする。それは、生きることをむなしくしないために大切なことではないだろうか。そのうえで自らを成していくことが、一人ひとりの「自我作古(じがさっこ)」であろう。60億の人間すべてにそれぞれの自我作古がある。電通中興の祖と呼ばれる吉田秀雄が提示したプロの仕事人の心得「鬼十則」も、「我より古を作す」という生き方を自分のものとするための指標である。生きるという「この遠い道程」が見守られていることは、「我より古を作す」自覚において感じられるものでもあろう。
【特集】
光陰は百代の過客
【特別インタビュー】
●女優 浅野温子

ほとばしる情感
浅野温子、「古事記」を演(かた)る


 静まりかえった夜の神域。ライトアップされた神社の神殿を背景に、渾身の舞台に臨む一人の女優。台本を片手に、白いシャツとジーパンという出で立ちで、あるときは激しいパフォーマンスを交えながら「古事記」上つ巻に登場する神々の話が語られていく。見る人にとって、それは複数の神々がやってきて演じているようにも感じられるという。伊勢神宮での上演を皮切りに5年目を迎え、観客は延べ35000人を超えた語り舞台「日本神話への誘い」に賭ける女優・浅野温子に、神話の魅力と、その思いを聞く一。



【特集】
我より古を作す
世界初!「からくり能」が行く
●東京工業大学名誉教授・日本ロボット学会名誉会長
 梅谷陽二

ロボットと日本文化が融合してメッセージ

 技術的にも精神的な高さにおいても、江戸時代のからくり師たちは現代のロボット研究者以上のものを持っていたのではないか。より人間に近いヒューマノイド・ロボットを世界に先んじて開発し続けてきた日本の研究者たちに、果たして「自我作古」の英知の結集であるロボット工学の世界は、どのような精神性を持ちえているのか。梅谷陽二氏は、ロボットと人間の文化的平和的共存という未来像を見据えて、ロボットによる「能楽」を成功させたいと考えている。その第1作「からくり能 友月(ゆうげつ)」の脚本も全文紹介。
銀河系を意識して−賢治が描いた宇宙観
●新潟大学名誉教授・物理学者 斎藤文一

作品から読み解く宮沢賢治の宇宙感覚

 生誕百十年を超えた今なお出版され続けている宮沢賢治関連の本。文学者、宗教者、物理学者、植物学者等、さまざまな分野の人々が賢治の作品の謎に挑み、思想に迫ろうとしてきた。物理学者・斎藤文一氏も、現場に足を運び、科学的な目で作品を捉え、五十年もの間、宮沢賢治に触れようとし続けてきた。
「銀河系を自らの中に意識してこれに応じて生きていくこと」。貧しい農民たちに向かってかつて賢治は語りかけた。それは、一人ひとりの人間がそれぞれ宇宙の真理そのものであるという考えからだった。


父と息子の剃刀(かみそり)
●鍛冶師 岩崎重義

勘の世界に理論を持ち込んで

 外国の技術力の増強によって故郷の刃物産業が衰退したことで、地元の復興を「敵討ち」と決めて日本刀の文献をひもとくことから始めた岩崎航介氏と、その父が理論化・数値化したものを職人的な勘の世界と融合していった息子・重義氏。新潟県三条の町の復興に大きく寄与した親子2代の「我らより古を作す」物語。


「神の子たち」の幸福論
● 映画監督 四ノ宮浩

人間本来のあり方を求めて

 子どもの一言はときに人生を見直すキッカケとなる。「のんびりと暮らしたい」という日本の子どもたち。この一言は彼らの日常生活がそれほどまでに忙しいということを示唆しているのかもしれない。フィリピンのごみ山で育った子どもは、「幸せって何?」と聞かれて「家族が死なないで生き続けること」と答える。彼らは日常的に死を目にしているからこそ、生を大切にするのだと四ノ宮監督は言う。日本とフィリピン、異なる社会で生きる子どもたちの一言は、それぞれに痛烈な批判となって私たちに浴びせかけられている。


商売は人間そのものだ!
●大庄社長 平 辰
居酒屋経営の原点がここにある

 「庄や」「やる気茶屋」など全国に約900件以上の居酒屋チェーンを展開する大庄グループ。他の老舗チェーン店が苦戦している中で、創業40年を迎えいまなお成長をし続けている。「母への感謝の気持ちを素直に感じたとき、経営の本質が見えた」とする創業者に聞く“自我作古”の経営哲学。


生死は平等−「いのちの時間」を生き始める大地
●小児科医・僧侶 梶原敬一
最大の差別は、いのちに対する差別

 生は喜ばしいもので、死は忌み嫌うもの。その不平等感が「いのち」を見えなくしてしまう。生と死が分断されて捉えられている現代に、生死が平等に存在し、過去からも未来からもいのちによって願われていることを知ったときに、本当の「いのちの時間」というものが流れ始める。いのちのありようを見つめることによって始まる自我作古を説く。


家庭からの教育再興プロジェクト
設立記念大会・対談抄録

あえて問おう、なぜ家庭の再興なのか
●評論家 金美麗 ●表現教育者 宮川俊彦
「親や家庭が問題」と考え、なんとかしなければとの機運が高まりつつある。しかし、こういうときにこそ必要な視点もある。「家庭からの教育再興プロジェクト」の設立記念大会(4月8日開催)で、顧問となった金美齢氏と宮川俊彦氏が、プロジェクトの原点に挑んだ。

【好評連載】
高橋史朗の第三の教育論<48>
「親学」に噛みついたメディア
●明星大学教授・埼玉県教育委員会
 委員長職務代理者 高橋史朗
これが解決の決め手!長田百合子の相談室<5>
「息子のリストカットはあなたのせいだ」と訴えられた教師
●エデュケイションライター
 長田百合子
石坂公成「自由と教育を語る」<6>
アメリカの民主主義社会と男女同権
●日本学士院会員・
 ラホイヤアレルギー免疫研究所
 名誉所長 石坂公成
文明の新地平<6>
西洋化=近代化の道すじ
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
体をひらく、心をひらく<6>
いい女はこうしてつくられる
耐えることによって育つ「美」1
野口整体実践入門講座
身体感覚と自己の成長1
野口整体 気・自然健康保持会
 金井とも子・金井省蒼
魂の独立宣言<11>
憲法不要論
●表現教育者 宮川俊彦
黙さず語らん<29>
自己流人生の考え
●作家 藤本義一
学び舎の窓から<13>
お父さんって、空気?
●教育実践『響の会』会長
 角田 明
にっぽん人情小噺<18>
給食費
●落語家 三遊亭鳳豊
未知なる輝き<30>
不可視の世界へ
●写真家 高木美佳
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<136> ●写真家 浅井愼平
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<85>
比良山
比良八荒と回峰行場
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<26>
教育者篇<7> 岡潔
●明治学院大学教授 武光 誠
●表紙写真 道岸勝一




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