2007年3月号
独慎抄
親のすべてを全身で受け止めて、子は「仮装の我」をつくる
いずれ捨て去る“仮の私”

 親の存在、かかわり方如何によって子どもの原風景は異なる。そうした親の自意識や自覚が、基本的には子どもにとっての「自分」というものの形成に寄与する。しかし、それをいつまでも持ち続けることは不可能である。それは礎となるものの、「仮装の我」は脱ぎ捨てられて真の自己を子ども自身がつくり上げていく。親は「仮装の我」をつくることにのみ役目を果たすことはできるが、その後には親の手の届かない子ども独自の「道は自分でつくる」という世界が待っている。しかし、それだけに親の自覚が重要なのだ。うまく「仮装の我」を育ててあげることができるかどうか。
【特集】
親子幻想
【特別インタビュー】
科学者というプリンシプル
●日本学士院会員・ラホイヤアレルギー免疫研究所名誉所長
 石坂公成

ノーベル賞に最も近い研究者が語る
「花粉症の処方箋」


 花粉症や喘息、食物や薬アレルギーに代表されるアレルギー性疾患は、いまや日本人の30パーセントが罹患しているという。このアレルギー性疾患の原因となる免疫グロブリンE(IgE)を発見したのが、石坂公成博士夫妻である。この基礎研究による発見は、アレルギー反応の機序を解明しただけにとどまらず、今日のアレルギー疾患の診断や治療に大きく貢献し、また免疫学や細胞生物学など現代生物学の中心となる研究を大きく進展させるものであった。それが石坂公成博士をして世界からノーベル賞に最も近い日本人研究者といわれる所以でもある。
 石坂博士はいかにしてアレルギーの謎を解明したのか。齢八十を数えるいまなお、失わない旺盛な探究心と研究者魂はどこから生まれているのか。石坂博士に聞く「サイエンスの本質と人間のプリンシプル」。


「大人」への準備、まだできてないの?
●絵本作家 五味太郎

「対応する」力ではなく「考える」力を持つこと

 目の前にある現象は自分にとって何なのか?ーそれを考える力を持っている「大人」が今どれだけいるだろうか。また、子どもがものごとを考えるための時間を待つ大人がどれほどいるか。自分は何が好きで、何が得意で、どんなときに冴えるのか。じっくりと自分を考える時間をもたないまま追い立てられ、「考える」ことではなく、「対応する」ことしか身に付かない子ども。考える力を持った本当の意味での「大人」になるためにはその人自身の気付きが必要だ。誰かの意見や常識ではなく、自分で考えていかなければならないということを。

みんなが生きている「エロス的関係」
●批評家 小浜逸郎

「教育」の前提となる「養育」

 子どもにかかわることはすべて「教育」というカテゴリーでくくろうとするが、「教育」は、大人と子どもがかかわる活動「養育」の一部にすぎない。私的領域である家族関係を舞台とした活動の「養育」という視点に立って考えると、私的な関係性(これを「エロス的関係性」という)から公的な関係性(これを「社会的関係性」という)へと渡していくのが親の役目である。人類が家族というシステムを生み出したことの中に、すでにエロス的関係が潜んでいる。さまざまな社会変化の中で子育ての本義を見失いがちになるとき、親子関係でしかできないことに目を向けていくことを忘れてはいけない。


脱・「うちの子も浅田真央」幻想
●早稲田大学教授 池田清彦

「あきらめ」を持てるか

 何事もあきらめさせない社会の空気。言い換えれば、人間の幻想が引き起こすエネルギー。これが時として子どもに重圧を与えてしまう。学歴やスポーツが子どもを幸福にするのだと親は勝手に思い込むが、それは誰もが実現できることではない。まして、「失敗」したときに別の選択肢が用意されていなければ、子どもはますます苦悩する。生物学的に分かってきた学習の適齢期に合わせて「少しの努力」をしながら、余裕を持った子育てを唱える池田氏。子どもの本心に気付く原点は、「一緒に飯を食う」といった当たり前のことにある。


答えのない世界に向かって、子どもたちよ羽ばたけ
●NPO法人「GDVI」理事長・元中学校教論 太田惠美子

学校現場から生まれた人間の根幹を育てる教育

 教育の善し悪しはそれを学んだ子どもたちが示してくれる。
今から30年前、体の大きさに心の成長が伴わない子どもたちを見て、教育内容に問題があるのではと感じた中学校教師。本来の教育とは何かを追究し続け、四半世紀をかけて教育現場から生み出されたのが「GDV(グローバル・ドリーム・ビジョン=地球規模の夢構想)教育」である。教育再生の機運が高まる中で脚光を浴びつつあるGDV教育について、その生みの親である太田恵美子氏に聞いた。


子育ての感性が低下した親たち
●すこやか子どもクリニック院長 三好邦雄

時代を超えた子ども像を見る

 小児科医・三好邦雄氏は、時代を超えて好ましい子ども像があるという。精神が安定していること、柔軟で広い価値観を持っていること、感性が豊かなこと……。それらが欠けると、子どもが大きく躓いてしまうことがある。医学の進歩と安定した経済状態の日本では、子育てがもっと楽にできるはずだが、現代の親世代は感覚的に子どもが分からなくなっていると三好氏は見る。しかしながら、子ども像をはっきり認識することで、子どもが見えてくるようになる。親たちが変われば、子どもたちも変わるのではないか。


[特別鼎談] 「家庭からの教育再興プロジェクト」発足へ向けて 
ーだれもやろうとしなかった家庭改革が始まる
●明星大学教授 高橋史朗 ●エデュケイションライター長田百合子 
●音楽家・埼玉県教育委員会委員 松居和

日本の社会に親心を取り戻そう

 いじめ、不登校、学級崩壊といった子どもの問題、そして自殺、虐待、不祥事などの社会現象─。元を辿れば人間教育の問題である。その担い手は家庭にあるとだれもが感じながら、それに対して何もできずにいたのが、わが国の現状であった。
 今年4月、親の崩壊、家庭の機能不全に正面から向き合い、本来の家庭の役割を取り戻そうと、有識者と親たちが協力して行う草の根的な運動「家庭からの教育再興プロジェクト」が発足する。それに先立ち、中心メンバーの三氏に、日本社会や家庭の現状、家庭の持つ使命とプロジェクトへの期待を語っていただいた。

【好評連載】
石坂公成「自由と教育を語る」<3>
日本とアメリカの中学・高校教育
ー両国で異なるエリートの資格ー
●日本学士院会員・
 ラホイヤアレルギー免疫研究所
 名誉所長 石坂公成
文明批評の地平<3>
ハンチントンにおける風土論の欠落  
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
体をひらく、心をひらく<3>
いい女はこうしてつくられる
仕事への不満と心の寂しさ
野口整体・実践入門講座
腹八分ー食べ過ぎ体操のススメ
野口整体 気・自然健康保持会
 金井とも子・金井省吾
長田百合子の相談室<2>
どこでもいじめの対象になる息子がとうとう不登校に
●エデュケイションライター
 長田百合子
お墓参りは楽しい<56>
正岡子規
35歳の若さで死去した正岡子規。晩年の病床日記を読み解き、著者自身の闘病生活とも重ね合わせ、「生きているが故の痛み」を描く。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
魂の独立宣言<8>
胃袋の秩序論
●表現教育者 宮川俊彦
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<133> ●写真家 浅井愼平
黙さず語らん<26>
お金について
●作家 藤本義一
【一芸の風光】
「真の美」は「綺麗」を超える ●木彫彩漆工芸職人 渡部誠一
【歴史エッセイ】
人生の指針を残した偉人たち<23>
新渡戸稲造
品性を高めることが大切だ
●明治学院大学教授 武光誠
日本の名山 その歴史と文化<82>
祖母山ー神話のふるさとの山
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
【好評連載】
未知なる輝き<28>
悲の人、真打昇進!
●落語家 三遊亭鳳好
学び舎の窓から<10>
「たかが学級編成」と言うなかれ
●教育実践『響の会』会長
 角田 明
にっぽん人情小噺<15>
十円玉
●落語家 三遊亭鳳豊
●表紙写真 佐々木悦久