2007年2月号
独慎抄
生きる場所・死ぬ場所を見定めた家と家族と家庭のあり方
健全な軋轢もある「団欒」

 家というハード、家庭というソフト、そこに暮らす家族という主体、これが三位一体となった本来のあり方を検証する必要があるのではないかと思わせる事件が相次いでいる。果たして、現代人は「団欒」をつくろうとしているのだろうか。
 今、「団欒」は死語と化しているが、本来の団欒は居心地の良さだけをいうのではない。さまざまな衝突も軋轢もしっかりと含みつつ、それでも団結していける努力の連続上にしか団欒は成り立たない。一面的な和やかさばかりを取り上げるメディアに毒されてしまうと、軋轢のある自分の家庭は本来の家庭ではない、という否定が始まってしまう。ぶつかり合いのない社会など存在しない。家族という社会にしても、あるいは職場にしても、それは同じ。社会の原点である家(家庭・家族)においてそのことを経験し確認しないで、社会など形成できない。その問い直しが必要になっている。
【特集】
「家」は死んだか
ー現代「住まい」考ー
【特別インタビュー】
フィールド・オブ・ドリームスー僕にはまだ遣り残した夢がある
●読売巨人軍終身名誉監督 長嶋茂雄
 聞き手 評論家・ジャーナリスト 植田剛彦

われらがミスターが帰ってきた!

 小学校4年生で敗戦を迎えた1人の少年は、唯一の遊びであった3角ベースに夢中になり、いつしか野球の虜になっていった。そして、ただひたすらに野球道を究め続け、常に日本人に夢と希望を与え続けた太陽のような存在となった。
 ライジング・サンー2004年3月に脳梗塞で倒れ、普通なら2度と立ち上がることはできないといわれた状況から3年。たくさんのファンの励ましにも支えられながら、想像を絶するリハビリとトレーニングに取り組み、あくまでも現場復帰を目指す、まさに野生の人ーミスター・長嶋茂雄氏が帰ってくる。その支えとなったのは「フィールド・オブ・ドリームス」ー「僕にはまだ遣り残した夢がある」という思いにあった。 


理不尽でいい「一つ屋根の下」 
●評論家 大宅映子

家は社会を教えるところ

 家は、人が育つ原点。ここが、いかにもあたたかな不自由のない場所であると、子どもは「社会とはそういうものだ」と勘違いをしてしまう。理不尽なことを言い散らす父親がいていい。そして、自分でできることは自分でやらなければ認めてもらえないのだと身にしみて感じる場所であっていい。苦労を当たり前のこととして積み重ねる場所であっていい。ところが、楽チンをする家の造りになってしまって、そういうたいへんさが家の中から減っていき、家庭内の関係性もまた面倒なことを嫌うようになっている。その意味で、家の造りというハードの面もまた家族関係のソフトの面に影響を与えている。ならば、せめて心構えだけでも、親という役割を自覚しておきたい。子どもが一人前になれるかどうかは、「一つ屋根の下」「同じ釜の飯」という信頼に立った上での親の権限と責任の行使ができるかどうかにかかっている。



携帯時代の「住まう力」 
●作家 藤原智美

「家族をする」という踏ん張りはあるか

 携帯電話が目に見えないところで関係性を変化させていることに思いが至っているか。家にいるのに、家族よりも外の友人と携帯でつながっていることのほうが重要だと考えるのは、安直な考えと笑うことは簡単だが、世の中の流れがそれを簡単に推し進めてしまうために、家庭という空間だけは社会に流されないように踏ん張っていく力を身につけていくしかなくなっている。「世間」が解体してしまった今、濁流に立ち、踏ん張って耐える力をどれだけ持つことができるかを、現代の住まいという問題は突きつけている。


現代“長屋”風情ー沢田マンションは今日も大家族
●沢田裕江

夫婦が自らの手でつくった「夢のマンション」

 高知市内に全国的に有名なマンションがそびえ立つ。その名も「沢田マンション」。一軒のマンションがなぜ、そこまで有名なのか。それは家主の沢田嘉農さん(故人)と裕江さんの夫婦が自らの手で完成させたという世界でも稀な建物だからだ。構造もまた複雑だ。約70室ある部屋すべての間取りが違う。4階には池があり、屋上まで車で上がれるスロープも。クレーンもあればリフトもある。世界で二つとないマンションが存在する理由、それは世界で唯一、住民がくつろいで暮らすことのみを追求して建てられたから。

家宅は人の心組みーつくり手と住まい手の百年後への願い
考えや意味を形に表す家づくり

 値段、機能、デザイン、間取り…、家を建てようと思ったとき、人それぞれに基準にするものは違う。しかし、「そもそも家とは何か、自分の家を建てるとはどういうことか?」と考える人はいるだろうか。
 千葉県に工房を構える「古民家工房」の大工・高橋義智さんに家づくりを依頼した施主さんたちは、決して「人任せ」ではない。「自分の家を建てるということの意味」を考え、木や土など未知の世界について自ら勉強し、ときには大黒柱になる木が生まれた土地へ足を運んで、つくり手とともに、「家に込められた思い」を一つひとつ重ねていた。



味噌汁の縁ー下宿今昔物語
●暁秀館館主 小竹妙子

世の中を学ぶには他人との共同生活

 数多くの学校がありながら東京でも年々減っていく賄い付きの下宿。しかし、東大赤門近くにある「暁秀館」は、五十年もの間学生を受け入れてきた。入居当初は初めての共同生活に戸惑っていた学生たちも、他人と暮らす中で半年もすれば年相応の礼儀も覚えていく。
 朝、起きれば味噌汁の匂い、食事の際には見知った顔。その日常がある住まいが人間に安心感を与える。


住空間という教育力 
●建築社会学者 樫野紀元

建築の今から日本の今が見えてくる

 精神的貧しさを証明するような事件が次々と起こり、メディアを賑わせている。心ある人々は、この国の将来を思い、教育を立て直さなければと考える。教育システムの抜本的見直しと同時に、居住空間という目に見えない教育力を見直していく時期に来ていると語る建築社会学者に、日本人の意識構造と住空間との関係を聞く。

【新連載】
これが解決の決め手! 長田百合子の相談室<1>
大人しく優しかった子が暴力を振るい出す 
●エデュケイションライター
 長田百合子
【好評連載】
石坂公成「自由と教育を語る」<2>
いじめ問題にみる日本とアメリカの初等教育ー
教育勅語と教育基本法の本質的な違い
●日本学士院会員・
 ラホイヤアレルギー免疫研究所
 名誉所長 石坂公成
文明批評の地平<2>
“ハンチントンの罠”を超えて  
●評論家・麗澤大学教授 松本健一
体をひらく、心をひらく<2>
いい女はこうしてつくられる
野口整体・実践入門講座
野口整体 気・自然健康保持会
 金井とも子・金井省吾 
魂の独立宣言<7>
「家所有」幻想論
●表現教育者 宮川俊彦
学び舎の窓から<9>
人生を歪曲した?「進学指導」 
●教育実践『響の会』会長
 角田 明
お墓参りは楽しい<56>
夏目漱石
前号の小泉八雲・節子夫人との意外な関係が漱石・鏡子夫人にはあった。ペンネームの由来から分かるのは「漱石は頑固者である」。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
黙さず語らん<25>
モチーフを考えよう
●作家 藤本義一
高橋史朗の第三の教育論<46>
文科省は説明責任を果たしたか
●埼玉県教育委員会委員長職務代理者
 高橋史朗
未知なる輝き<27>
古き良き日本の女性に憧れて
●芸妓 玉羽
にっぽん人情小噺<14>
盗めない
●落語家 三遊亭鳳豊 
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<132> ●写真家 浅井愼平
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<81>
日光白根山 補陀落夏峰の山々
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<22>
教育者篇2 石田梅岩 
万事を子どもの思いのままにしてはならない
●明治学院大学教授 武光誠
●表紙写真 佐々木悦久