2006年10月号
独慎抄
肉体の束縛を超えて真実そのものと合一する

人間は、感知した感覚を、生命維持のために、生き残りのために無意識のうちに統合させる。それは自己意識を生み、同時に自己の存在の証明でもある自我意識をも生む。そこには「副作用」ともいうべき我執を内在させている。このとき、自我意識、我執によって見えなくなっている真実の世界に自己が一体となるとき、その状態を解き放たれた解脱、あるいはエクスタシスという。
【特集】
エクスタシスー生の胎動ー
◎グラビア PLANET EARTH 撮影・梶井照陰

太古の記憶、宇宙が鳴り響く
●太鼓奏者 林 英哲

風土から生まれた言葉がリズムになる

 古来、祭りや神楽の囃子として日本の民俗行事に根付いてきた和太鼓。その和太鼓の奏法を自ら作り上げ、芸術音楽として高め、日本のみならず海外で絶賛される位置に導いたのが、林英哲さんである。若い頃、ボストンで太鼓演奏を終えた林英哲さんに名指揮者レナード・バーンスタインが、駆け寄ってきて思わず抱
きついたというエピソードは有名だが、独立後も、世界各地へ和太鼓の魅力を届け続けている。和太鼓の響きが生き生きと甦らせる、根源的な「生」に迫る。

◎グラビア 秘境─久高 撮影・比嘉康雄

●レポート
神々と生きる人々─沖縄・久高島の祭祀に見る
〈日本人の魂の原郷〉

現代生活が捨て去った大自然、自然と人との交流

 沖縄・久高島は、琉球の創世神アマミキヨが初めて降り立った地とも、五穀発祥の地とも伝えられる聖地である。しかし、琉球王朝より遙か以前からこの島では女神を守護神とする祭祀があった。男は海人、女は神人であり、それは自然神に祈り、祖先を敬うといった、最も始原的でシンプルな信仰であった。「神の島」を守り伝える、島人たちの祭祀と暮らしぶりに日本人の魂の原郷を探る。

◆「神の島」を守り伝える 沖縄県南城市久高区長 西銘政秀


◎グラビア サルバドールの激しい高揚 撮影・井上和博

女性の身体にある力
●津田塾大学教授 三砂ちづる

ハラの据わった女はこうしてできていた

 月経・妊娠・出産は、女性だけが経験し得る次の世代を用意する「いとなみ」。太古より女性たちが自らの身体を通して脈々と受け継いできた、その「いとなみ」が社会の中で軽視され、女性自身もまた疎ましく感じているのが現代である。女性から女性へ伝えられてきた身体の知恵を掘り起こし、次世代に手渡ししていくことこそが、女性自身や家族、ひいては社会にとってより良い方向をもたらすと語る三砂ちづる氏に、女性に備わる身体の知を聞く。


出産・育児体験談 至福のお産
●金田 幸

身体は自然とそのときの「一番」を選んでくれる

 お産には「つらいもの」というイメージがつきまとうが、本当にそうなのか。アパレル企画の会社でキャリアウーマンとして活躍していた金田幸さんは、野口整体との出会いをきっかけに、自分の身体の声に耳を傾けるようになり、おなかの中で排卵の時期や受精の瞬間まではっきりと感じ取るようになった。そして、「この世のものと思えない」至福のお産だったという、その体験と子育てについて聞いた。

◆生命の要求は一個の受精卵から 野口整体 気・自然健康保持会主宰 金井省蒼


遙かなる生の原郷ー「一人一宇宙」ー唯識が説く壮大な世界観
●立教大学名誉教授 横山紘一

「私」を超えた「私」になる

 人間は、ほとんどが凡夫として生まれ、育つ。しかし、人間に本来的に備わった「はたらき」は計り知れないほど深く、大きいという。「知性」を至上とし、それに縛られて閉塞し、呻吟しているかのような近代社会で、仏教、中でも唯識学は、あらゆる存在や事象は心の本体である「識」の作用によって仮に現れた現象に過ぎないとし、己を超えた「遙かなる生の原郷」へと我々を誘う。はたして、それは現代の閉塞に何を示唆し、どのような世界観を価値観を提供してくれるのか。日本における唯識学の第一人者に聞く。


自己の根源世界を探る一魂、知性、一者への旅
●大阪府立大学教授 山口義久

自分の意識の奥にあるもの

 「自分を見失う」という言い方が聞かれる。これは、自分の根源がどこにあるのか分からなくなっている状態のことだ。では、自分の根源はどこにあるのか。自分を離れた「どこか」にあるのではない。自分の内にある。もちろん、これを意識することはできない。
ギリシアの哲学者プロティノスは、これをヌース(知性)と呼んだ。これが背後にあって私たちは通常の意識の世界を生きている。が、このヌースの奥には、ト・ヘン(一者)という最高に優れたものがある。これがすべての根源となって世界はつくられているのだとプロティノスは言う。現実世界を生むプシューケー(魂)、その奥のヌース、さらに内奥のト・ヘン、こうした考え方に思いを至らせることが、見失った自己を取り戻すときに誤った方向に向かわせず、重要な手がかりとなる。


時間の彼岸ー生の根源に向けて「覚醒」すること
●明治大学助教授・人類学者 蛭川 立

「時間的貧困」を超えて豊かに生きる

 古代インドの奥義書『マーンドゥキャ・ウパニシャッド』によれば、人間にとって最も本来的な覚醒状態は、われわれが日常意識しない「第四の意識」であるという。トランス、悟り、変性意識状態、エクスタシー、法悦、至高体験…とさまざまな呼ばれ方をしてきたこの超越的な意識状態は、古今東西の人類が共通して体験してきた意識の状態であるが、近現代では封じ込められてきた。世界の根源的神秘を求めてフィールドワークを行ってきた若き人類学者、蛭川立氏に聞く、生の根源的境地と現代─。

【連載】
魂の独立宣言<5>
愚母亡国論2 女性解放という逆説
●表現教育者 宮川俊彦
学び舎の窓から<5>
運動会のヒーロー「カッちゃん」
●教育実践『響の会』会長 角田 明
お墓参りは楽しい<52>
グラウンド・ゼロに眠る犠牲者たち
「9・11」によってニューヨークの世界貿易センタービルで亡くなった3000名近くの人々が眠る跡地グラウンド・ゼロには、いま、新しいビル「フリーダム・タワー(自由の塔)」の建設が進んでいる。この塔を犠牲者のお墓と筆者は見る。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
黙さず語らん<21>
心の継続の尊さ
●作家 藤本義一
高橋史朗の第三の教育論<42>
「心のかたち」を教育の中心軸へ
●埼玉県教育委員会委員長職務代理者
 高橋史朗
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<128> ●写真家 浅井愼平
一眼の彼方<10> ●フォト・ジャーナリスト 井上和博
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<77>
飯縄山 伝説と信仰の深山
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<18>
織田信長
努力して身につけたものが貴重だ
●明治学院大学教授 武光誠
【好評連載】
長田百合子の体当たり奮戦記<41>
教育者がバカを見る社会
●エデュケイションライター
 長田百合子
未知なる輝き<23>
波を「観る」
●僧侶・写真家 梶井照陰
にっぽん人情小噺<10>
「からすなぜ鳴くの」
●落語家 三遊亭鳳豊




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