2006年9月号
独慎抄
「清らかに澄み切ったエキスのような心」の“はたらき”

 『老子』4章に、
「其の光を和し、其の塵(ちり)に同(どう)ず」
 という一節がある。人口に膾炙されて久しい「和光同塵(わこうどうじん)」の教えである。その意味は「光を和らげて塵に交わる」ということだが、基本的な意味としては、人間の生きるべき道はすべて宇宙の“はたらき”に法っているということである。言い換えれば、自分自身の心の奥底にある本心(即ち真の情)に正直であること、本心の自分を信じ、その本心から発した自らの使命、志を行為的に実証することにほかならない。それが本来「情」の意味するものである。
【特集】
情−その光を和し、
その塵に同ず
【グラビア】BONIN ISLAND TOKYO
写真 中嶋隆

世界に羽ばたけ、日本人の真情(まごごろ)
−素直に感じ、素直に信じる
   「タフ・ネゴシエーター」の素顔−

●早稲田大学大学院客員教授 中山恭子

日本外交に品格はあるか!
 2002年、内閣官房参与として北朝鮮日本人拉致問題の調整役となり、拉致被害者5人とその家族8人の帰国実現に尽力した中山恭子氏。「目の前にある問題を素直に自分に問いかけ、自分自身ができることをやるだけ」という何事にも「筋道を通す」信念で、芯の強いタフなネゴシエーター振りを発揮しながら、拉致被害者関係者から圧倒的な信頼を得続けた中山氏に見る「日本人の真情」。


理不尽という宝物
−人間はなぜ野生から離れてはならないのか−
●獣医・写真家 竹田津 実

関係性の問題が野生の感覚の欠如にある
 動物たちの世界は、理不尽なこと、めんどうなこと、不確かなことにあふれている。人間の世界は、そうした邪魔者と思えるものを避ける傾向にある。しかし、どうだろう。邪魔者扱いしているだけではないだろうか。本当の豊かさが、そこにあるのではないか。親子関係ひとつをとってみても、決して人間のような殺し合いの構図はない。子どもは本来、動物に近い感覚を持ち合わせているもの。関係性の問題が起こるのは、論理的思考に偏るあまりに本質を秘めた理不尽さに耐えられなくなっていることに原因がありはしないか。



孤島の血脈−小笠原有史とともに生きる一族−
●セーボレー孝

小笠原有史以来から土地に生きる血脈の誇り

 小笠原諸島に人が住み始めたのは今から176年前。ナサニエル・セーボレーをはじめとする欧米人・ハワイの住民ら25人が未開の地、父島に足を踏み入れた。初代島長のナサニエル・セーボレーから五代目、小笠原村役場に勤務するセーボレー孝氏は「自分は何者で、どこから来たのか」と自分のルーツを探し続けている。それは時間の流れの中で自分の存在が過去と未来をつなぐ縦軸だと実感する作業だ。島という閉ざされた空間では、自然・隣人と向き合わざるを得ず、その環境が「今、ここで生きている」という横の繋がりを実感させる。その縦軸と横軸の中心に自分がいると実感できたとき、生きることの意味が少しずつ開けてくる。


大善は非情に似たり−人間としての経営、人間としてのジャーナリズム−
●「東京顕微鏡院」理事長兼「こころとからだの元氣プラザ」理事長 下村満子
「人間としての機軸」が欠如している

 ベンチャー企業経営者がカリスマ的に持てはやされる。と、ある日を境に一転して非難の的となる。経営者に問題があるとしても、それを日和見的にあおるのがメディアだ。経営にとって必要な機軸、ジャーナリストとして必要な機軸、それが両者にない。「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」。本来は、利己的な価値基準とはおよそ縁のないところで経営もジャーナリズムも存在すべきもの。「本質」を突き進むときに必要な機軸となる「人間として」の中に情がある。



「生き残り」としてではなく
●歌人・広島原爆被爆者 梶山雅子

忘れたいことだから語る

 友達は原爆によって亡くなった。偶然にも助かったことが、「生き残り」として自他の責めを受ける。少女は大人になっても口を閉ざした。「なぜ、あなたは生きていたのですか」と親友の母親から非難された。50年後、その母親が「あなたは生きていてください」と言ってくれた。そのときから自分の経験を語り始めた。級友たちのことを、あのころの自分たちと同年代の子どもたちに。「生き残り」としての語りではない。亡くなった友らのために、未来ある者たちのために。


勝たせたいのには訳がある
●サントリーラグビー部「サンゴリアス」監督 清宮克幸

何物にも代えがたいものを与える役目

 勝った者だけが勝った仲間とともに味わえる幸福感がある。一人だけの勝利では得られない、チームという絆を通しての感動を伝えたい。何物にも代えがたいものが、選手たちの目の前にある。それを与えるのがリーダーの役目。弱小チームだった早稲田大学ラグビー部を常勝軍団に導き、いまサントリー「サンゴリアス」を指導する清宮克幸監督の熱い思いが、選手だけでなく、観客や周囲の人々を動かしていく。


友情の残映−親密圏と匿名性に駆逐される公共性の中で−
●広島大学大学院助教授 清水真木

友達と友達ではない関係の違いを言えるか

 「メル友」を友達と言い切れてしまうことは、友達と友達ではない関係の違いの無自覚さの表れではないのか。プラトンやアリストテレスの時代からの「友情論」を見ていくと、「友情のためなら罪を犯しても許されるのか」という命題に行き着く。これに対する「イエス」と「ノー」の答えは、公共性と個人の親密な関係のどちらを重視するかによっての違いでもある。公共性と自分の生活がまったく別次元のものとして捉えられている現代社会に、この命題は大きな示唆を与える。


みんな本気になれよ!
●新宿救護センター所長 玄 秀盛

どこまで苦しんで、どこまで本気に生きてるか

 新宿・歌舞伎町で人生相談の「駆けこみ寺」には、今や全国から相談者がやってくる。その所長・玄さんは、自身の波乱万丈の人生から得た哲学で、分け隔てなく相談に乗る。世の中に対して思うのは「自分のものさし」を持っている人が少ないということ。それは本気で生きていないから、とも言う。自分を救えるのは他の誰でもない、自分自身。だからこそ玄さんは、自分で解決して、自分で生きていく力を取り戻させることの手伝いをする。

【連載】
魂の独立宣言<4>
愚母亡国論1
●表現教育者 宮川俊彦
学び舎の窓から<4>
夢を見ただけの二人の少年
●教育実践『響の会』会長 角田 明
お墓参りは楽しい<51>
ジョン・レノン
名曲「イマジン」を自由訳した著者は、オノ・ヨーコさんと対談し、ジョンを追悼する「イマジン碑」に黙祷を捧げた。「ジョンが生きていたら、どんなに喜んだことでしょう」そうオノさんは言った。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
黙さず語らん<20>
真のライバルは持つべきだ
●作家 藤本義一
高橋史朗の第三の教育論<41>
元宮内庁長官のメモと東京裁判
●埼玉県教育委員会委員長職務代理者
 高橋史朗
【グラビア】
COSMOGRAPHY ●画家 千住 博
日に晒され風に吹かれ<127> ●写真家 浅井愼平
一眼の彼方<9> ●フォト・ジャーナリスト 井上和博
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<76>
飯縄山 秘法と忍法の山
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<17>
アブラハム・リンカーン
強い決意をもって成功をめ
●明治学院大学教授 武光誠
【好評連載】
長田百合子の体当たり奮戦記<40>
逃げる親、立ち直れない子
●エデュケイションライター
 長田百合子
未知なる輝き<22>
言葉とは人間の存在そのものだから
●言の葉人 平紀
にっぽん人情小噺<9>
「運動会」
●落語家 三遊亭鳳豊
●表紙写真・中嶋隆