2006年5月号
巻頭言
 自らの生きる形を言葉の鏡に映し出す時

 日本曹洞宗の開祖・道元に「本来の面目を詠ず」と題した、

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり

 という歌がある。これは道元が、日本の風土に息づく花鳥風月を美しく詠いあげた歌だが、ここに込められた歌心には日常を突き抜けた深い響きが宿っている。
 そして、その透き通った鏡のような言葉によって映し出された世界には、日本の風土や四季、そして詠む人の死生観や世界観、生命観や人生観までが一つの心象として余すところなく凝縮され、大らかに表現されている。しかも同時に、その表現は、この地球全体を、はたまた宇宙全体を、貫いてはたらく真理さえも精妙に表現しつくす響きをも持っていた。実に言葉が言霊として躍動している世界といえるものである。時空を超えて響きあう言葉には、すべてを貫く言霊が宿っている、これこそが日本(やまと)の言葉である。
【特集】言葉が映す
「生き方」
うたー言葉は人間そのものであるー
●詩人 大岡 信

「折々のうた」に流れる日本語の力
 「折々のうた」で知られる大岡信氏は、学生時代から詩人として頭角を現し、以来、常に言葉を磨き、言葉に生命の息吹をふき込んできた。
「美しい日本語」を、そして「豊かな言語表現の再生」を絶えず求めてきた詩人の大岡氏は、「言葉は人間そのものである」と喝破する。
 現代日本詩壇の具眼の士・大岡信氏に聞く、民族生き残りの言葉の力、言葉に込められた人間としての生きるかたちー。
禅の公案ー言葉の幻想を突き抜けるー
●(財)禅文化研究所所長 西村恵信

言葉という舟に乗って自己を求める
 言葉は空虚な概念で、それにとらわれないようにするために、禅では「言葉や文字はいらない」という。しかし、禅ほどたくさんの言葉を用いて教えようとする仏教もない。なぜなのか。呪縛している言葉を打ち抜いて捨てさせるために、新たなくさびとして禅の公案が用いられる。そうして、言葉にもできないものを通して本来の自己を探求していく。


強かな表現者たれ!自己を切り拓く作文の力
●表現教育者 宮川俊彦

「表現」は社会と不適応な自己を知ることから始まる
 教育の壊乱と自己破綻という深刻な現代にあって、子どもに最も必要なのは、時代を生き抜く力を身につけさせることという信念のもと、子どもの内面に深く分け入り、時代を捉える視点や思考法、自己表現の活性化を促しながら、人間そのものを育成してきた宮川俊彦氏。作文という一つの窓から、子どもの「いま」や時代の深層、現状打開の道を探り続けて33年になる宮川氏に、言葉による人間と社会の再生を聞く。


祈りの底で祈り続ける
●日本基督教団松戸教会牧師 石井錦一

自らを解き放つ真の祈り
 松戸教会の牧師、石井錦一氏は、自分の弱さや迷いをそのままに、祈りの言葉として長年にわたって書き続けてきた。「神様、信じられません」「赦せません」「愛せません」─。姿が見えない神を求めながらも神の存在を疑ってしまう人間という存在。しかし、美辞麗句ではなく、苦悶の中からこぼれ落ちるその呻きの一言こそが、実は真の祈りとなり、人々や神へと繋がる道となる。


閉じられた魂を開く「笑い」という言葉 
●介護士・(有)笑う介護士代表取締役 袖山卓也

「笑い」で老いの世界を開く!
 介護士の袖山卓也さんは、「お年寄りの最後の人生に寄り添いたい」と自分の仕事に情熱を捧げる。「人生の最後」を共有するために、彼は「笑い」という「言葉」を重視する。認知症などの心が閉じてしまった人々から、言葉や身振りで「笑い」を引き出す。そしてお年寄りは「笑い」をたたえた表情で応える。そこにあるのは「会話」でお互いが寄り添う姿。


「からだ」は語る
●演出家・「からだとことばのレッスン」主宰 竹内敏晴
「あなた」と「私」を繋ぐもの
 「言葉は自分自身の本来の姿である」と竹内氏は語る。しかし、私たちは言葉を「自分の姿」として捉えているだろうか。社会に無数に存在する言葉を自分の言葉としてではなく、借り物の言葉として使ってはいないだろうか。自分の中から沸きあがるものを言葉にするのではなく、言葉に自分の気持ちを当てはめてはいないだろうか。それでは他者に自分の姿を見せることもできず、「あなた」と「私」という関係性は築けない。自分がいて他者がいて、そして同じ場所にいる。そのために必要なことを竹内氏が教えてくれる。


「つぶやき」を持っていますか
●詩人 松永伍一

自分のいのちに繋がる言葉
 詩人であり、半世紀もの間、日本の子守唄を追究し続けてきた松永伍一氏は、最近使われている言葉について「自分のいのちが生かされているという思いと繋がっていない」と言う。自分が生かされていることに気付くと、太陽や星への感謝の気持ちが自然と生まれ、そして言葉となる。子守唄は母親がわが子に思わずもらした「つぶやき」が出発点だった。このような「つぶやき」の言葉がいのちを育て、いのちがまた言葉を磨いていく。


ザ・ミッション ー“ありがとう”を集める使命ー
《できること、そして続ける勇気と希望と誇り》
●ワタミ株式会社代表取締役社長 渡邉 美樹

夢は実現するためにある
 「ありとあらゆる努力を、惜しみなく、達成できるまで、為し続ける」という創業以来変わらぬ経営理念を果敢に実行し続けているワタミグループの創業者・渡邉美樹氏は、自身にかかわるすべての人に対して、自分の信念を体験という砥石で磨いた「言葉」に託し、熱烈たる情熱を持って発信する。そして自らにも、夢実現のためにことを課し、一日一日を完全燃焼する。その生き方の実際を聞く。

【新連載】
COSMOGRAPHY ●日本画家 千住 博
【連載】
お墓参りは楽しい<47>
宮本武蔵
剣豪のお墓は熊本にあった。武芸も生き方も臨機応変。常に目の前のものと対峙する現実重視の武蔵だからこそ「五輪書」を著しえたのか…。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
黙さず語らん<16>
済まないの言葉の深さ
●作家 藤本義一
高橋史朗の第三の教育論<37>
教育基本法改正の論点 
●明星大学教授・埼玉県教育委員会委員長職務代理者 高橋史朗
【グラビア】
日に晒され風に吹かれ<123> ●写真家 浅井愼平
一眼の彼方<5>外国人力士の台頭 ●フォト・ジャーナリスト 井上和博
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<72>
安達太良山ー噴火と鬼女伝説ー
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<13>
田中角栄 ー嫌なことにこだわると前進できなくなるー
●明治学院大学教授 武光誠
【好評連載】
未知なる輝き<18>
「見て見ぬふり」と戦う
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長田百合子の体当たり奮戦記<37>
母親の演技が家庭を円満にする
●エデュケイションライター
 長田百合子
リーダーの要諦<48>
『貞観政要』を読む
●中国思想史家 疋田啓佑
にっぽん人情小噺<5>
「仲なおり」
●落語家 三遊亭鳳豊