2006年4月号
巻頭言
 万古(ばんこ)の時代から人は人と共に生きる術を身につけてきた。いや、そうでなければ人間は生きていくことさえ困難だった。原始の共同体は、共同体の存続そのものが、人の存続を意味していた。文明も、文化も、そうした共同体が「生き残りの営み」として生み出し、遺してきたものであった。
 その「共同」という人類生き残りの英知が、近現代の科学・技術文明、あるいは市場経済文明によって唾棄されようとしているとするならば、近現代の諸文明は、人類滅亡への文明でしかなくなるのではないか……。
【特集】共同への覚醒
<めざめ>
剥げ落ちる共同の彼方に
●作家 高村 薫

小説界の女王が語る「現代日本の実相」
 21世紀を迎え、社会のありようが大きく変貌を遂げている今、私たちは何を失い、何を取り戻さなければならないのか。
 昨年3年ぶりの話題作『新リア王』で、代議士の父と禅僧の息子の対話を中心に、1980年代の政治家の実態と、戦後日本の転換期に生きる人間の様相に迫った高村薫氏に聞く、現代日本の剥げて落ちゆく「共同」の彼方に見る、日本人一人ひとりの「生きる意味」。
ツンドラの大自然に磨かれた暮らし ー天地を共同する民ー
●写真家 八木 清

あらゆる繋がりの中で生きる
 極北の狩猟民、エスキモーとアリュートの人々の暮らしと、彼らを取り巻く自然を取り続けてきた写真家・八木清氏。その写真の中心を成すのが、昔ながらの伝統を受け継ぐ老人たちと、同化政策と西洋化の波を受け、母語を話せない若い世代とを一枚の写真に撮った家族のポートレートである。「文化の核」である母語を失い、自らのアイデンティティをも見失ってしまった若者たちが、今、光として見出しつつあるもの。それは、何世紀もの間、厳しい自然の中で生き残ってきたエスキモーやアリュートとしての暮らしの中にあった。


芝居の郷に福の神が舞い降りる
●NPО法人嘉穂劇場 顧問 伊藤英昭 ●事務局長 伊藤真奈美

水害による壊滅の危機が人々の心に甦らせた「大切なもの」
 明治以来、日本近代化のエネルギー源として全国出炭量の半数以上を供給し続けた九州・筑豊炭田。2年前の夏、「旧産炭地・筑豊のシンボル」ともいわれた芝居小屋・嘉穂劇場が豪雨災害で壊滅状態となり、関係者のだれもが復興を諦めかけたとき、芸能人や大衆演劇の役者たちが動き始め、地域の人々にも変化が現れて、わずか1年で不死鳥の如く甦った。家族の堅い結束で幾多の危機を乗り越えてきた80年と、水害を機に、地域共同のシンボルとして生まれ変わった嘉穂劇場の「いま」を聞いた。

TOKYO KIDS 1965~66 イシイ・ヨシハル


「障害」という健全さ ー「べてるの家」は今日も共同に満ち溢れているー
●ソーシャルワーカー 向谷地生良

キャッチフレーズは「精神病でまちおこし」
 人口1万6千人の町北海道浦河町にある精神障害を抱えた当事者と地域の人たちによる地域活動拠点「べてる(神の家という意)の家」が、今多くの人の注目を集めているという。
 この「べてるの家」の誕生のきっかけをつくったのが、1978年に日高地区初めてのソーシャルワーカーとして浦河赤十字病院に赴任した向谷地生良氏である。彼は「社会復帰を促さないソーシャルワーカー」として、自らべてるの仲間と共に生活し、現場に入ることで、新しい精神医療のあり方、地域社会のありようを提案してきた。それは、人としてあたりまえの苦労を存分に味わうことであった。


「ありがとう」に還る場所
●ふじ内科クリニック院長 内藤いづみ

家族と向かい合い、自分と向かい合う在宅ホスピス
 家族と向かい合い、自分と向かい合う在宅ホスピス
 ホスピス(終末医療)は悲しく、暗いものだと思われていないだろうか。内藤いづみ医師は「いのちを自分のものとして取り戻すこと」がホスピスなのだという。いのちの最期を、医療にからめとられず、自分のものとして取り戻す。そのときに選択する一つの場が在宅ホスピス。人生を家族とともに、自分の家で過ごすという当たり前のこことのなかに、最後の、そして濃密な「向かい合い」が表れる。それが「ありがとう」に還る場所。


「向き合う他者」として
●児童文学評論家・翻訳家 清水眞砂子
孤立する若者、寛容さをなくした大人
 今年、成人式を迎えた大学生が、成人式の実行委員として数カ月にわたる準備に携わった。
 自治体の担当者は「手づくりの成人式」を求めながら、実態は既定路線を歩まされていた。「大人になるとは、どういうことか」と考える大学生の手記を受けて、清水眞砂子さんは、若者や子どもに対する寛容さを持たなくなっている大人に「向き合う他者」としての役割を説く。


「やる気」の引鉄を引く! ー働く人を「本気」にさせる“きっかけ”と“継続”の力ー
●株式会社リンクアンドモチベーション代表取締役社長 小笹芳央 

組織運営の極意がここにある!
 日本を代表する大手企業、そして不祥事から再生を図る老舗企業。あるいは新進気鋭のIT企業など今を時めく成長企業まで、その数約1千社にも上るクライアントを持つコンサルティング会社・リンクアンドモチベーション(LMI)。同社の事業テーマは、文字通り「社員のやる気をいかに高めるか」の一点にあり、わずか創業6年目にして連結売上52・5億円を見込む。
 独自の人材育成論や組織論を提案し、また自らも実践し続けるLMI創業者・小笹芳央氏が熱誠を込めて語る「管理者必見のマネジメント実践活学」。

お墓参りは楽しい<46>
下村湖人
『次郎物語』の作者・下村湖人の生家は佐賀県千代田町にある。お墓は東京・板橋のお寺にある。自らの人生で不運に見舞われたとき、『次郎物語』に救われた新井満氏がお墓を訪ねる。48年の思いが実った。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
黙さず語らん<15>
漢字は手書きで考えよう
●作家 藤本義一
高橋史朗の第三の教育論<36>
親は子供にどう関わるべきか 
●明星大学教授・埼玉県教育委員会委員長職務代理者 高橋史朗
【グラビア】
日に晒され風に吹かれ<122> ●写真家 浅井愼平
そのまんまの世界 ●画家・書家 佐藤勝彦
一眼の彼方<4>路上ライブ ●フォト・ジャーナリスト 井上和博
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<71>
有明山 失われた寺院と謎の神社
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<12>
足利尊氏ー他人を批判する前に自分を見つめようー
●明治学院大学教授 武光誠
【好評連載】
未知なる輝き<17>
「ブログ力士」、角界に新風
●関取 普天王水
長田百合子の体当たり奮戦記<36>
最後まで娘に向き合えなかった母
●エデュケイションライター
 長田百合子
リーダーの要諦<47>
『貞観政要』を読む
●中国思想史家 疋田啓佑
にっぽん人情小噺<4>
「涙のパスボール」
●落語家 三遊亭鳳豊
●表紙写真 撮影・八木 清




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