2006年3月号
独慎抄 いのちの神秘と奇跡に感謝する心が拓く未来
なにゆえ“いのち”という存在がこれほどまでに軽くなってしまったのか。
かけがえのないたった一度限りのいのちを、いとも簡単に、あまりにも軽薄に、モノと同じような存在と錯覚してしまったのか。
現代に生きる私たちは、お産といういのちの神秘や奇跡にあまりにも無関心ではないのか。お産を医療としてのみ考え、医師や産院にマル投げし、その視点からしかお産を見ていないのではないだろうか。人間がこの世界に生を受けることをあまりに機械的に、あまりにも当然の事としてしか捉えていないのではないだろうか。
【特集】母という神秘
宇宙の力に手を添える
●吉村医院院長 吉村 正

人間に残された最後の自然をいのち懸けで守る
 日本では1960年代から病院に産婦人科ができはじめ、お産は医療現場で医者にコントロールされながら行うものとなった。若いころ最先端の産科医療を目指した吉村正氏は、医療介入の浅はかさに気づいて自然なお産を追究しているうちに、人間が触れてはならない領域があると悟ったという。
 自然分娩を追究する産科が全国的に非常に少ないことから、ここには通常なら即帝王切開や陣痛促進剤を投与されるリスクの高い妊婦も集まってくる。そういうリスクを乗り越えてまでも自然なお産にこだわるのは何かー 吉村院長と、ここに集う多くの妊産婦の声を拾った。
野生に潜む豊かな世界
●マタニティ・コーディネーター きくち さかえ

「分娩台を使わない」ことの深い意味
 いのちを産み出すという機能が女性に備わっているのなら、それを最大限に味わってみたいと思った一人の女性がいた。やがて「お産」の魅力にとりつかれた彼女は、持ち前の探求心と行動力で世界14カ国の出産事情を取材し、近代医療からお産を解放する運動にも取り組んできた。現在、出産前の女性たちにさまざまな情報を提供し、その人らしいお産をサポートする傍らで、富士山の麓に居を構え、本当の「自然」を求め、味わっている。
 マタニティ・コーディネーターという分野を確立した、きくちさかえさんの人生を通して見えてきた産む側から見えてきた「お産」。そこには、現代が忘れかけた深い世界が横たわっていた。

子宮コスモス
子宮の中で繰り広げられる凄まじいばかりの生命のドラマをイラストと文章で綴る


イラスト・島田 勲

いいお産をすると、すべてがよくなる
●春日助産院院長 大牟田智子

お産を通して見えた「食の崩壊」「世代の断絶」「母子関係の危機」
 助産院とは医者の手を借りずに助産師のみで出産を介助する産院である。春日助産院(福岡県春日市)は、1960年代に病院に産婦人科ができはじめ、お産が生活の場から遠のき、「産むお産」から「産ませられるお産」になったことへの危機感から開院した。自由な体位による自然なお産を取り入れる一方で、食育やお産教室を積極的に行い、専門家を招いての体作り、離乳食教室、ベビーマッサージなども取り入れ、出産前後の女性を生活面からも精神面からも支えている。
「お産の経験こそが女性の精神的成長を促し、母子間の関係をいい方向へ導き、ひいてはいい社会をかたちづくる」という現院長の大牟田智子を訪ねた。

Blissful Moments <至福の瞬間>
お産を追い続けてきた写真家による、ある家族のドラマ

 
撮影・丸谷美津子

「いのちの誕生」と通過儀礼
●お茶の水女子大学教授 波平恵美子

共同体に見守られていた「妊娠・出産・幼いいのち」
 一人の人間は、成長していく中でいくつもの通過儀礼を経る。特に生まれて間もない赤ん坊や幼い子どもには、お七夜、お宮参り、七五三…と多くの儀礼が待っている。現在では形骸化してしまっているこれらの儀礼は、赤ん坊が生まれる以前の世界から、一人の生者として、また共同体の一員として、周りの人々やその土地の神様から認められていく過程でもあった。儀礼を経るごとに、確実に重みを増していく子どものいのち。かつて、一人の子どもの誕生や成長は、その母親と父親のみではなく、多くの人たちや神に見守られていたのである。


いのちの「理念」を伝えよ
●龍源寺住職 松原哲明

人のいのちは海の中から針を探すようなもの
 仏教では生命の存在を「大海の一針(たいかいのいっしん)」あるいは「妙高の線(みょうこうのいと)」と言い表す。大海の中からたった一つの針を拾い上げるようなもの。高い山の上から細い絹の糸が垂れてきて、一本の針の穴に糸が通ったようなもの。それほど気の遠くなるような「いのち」の誕生を、「極微(ごくみ)」とも表現する。46億年前に地球が誕生し、さまざまな地殻変動や環境の変化を経て、今ここに自分のいのちがあること。染色体75兆通りのうちのたった一つが自分であること。その生命存在の「理念」を伝えるために、まず親としての自覚を持つべきである。

<特別寄稿>
山内一豊の妻
NHK大河ドラマ「功名が辻」(原作・司馬遼太郎)で描かれる山内一豊とその妻・千代。果たして二人はどのような人生を送ったのか。特に、千代という女性はどのような心配りで夫を支え、動乱の世を生き抜いていったのか……。
●作家 阿井景子
お墓参りは楽しい<45>
神戸の外国人墓地
異文化を吸収しながら一つの街となっている神戸は、コラージュの街。その原点は、さまざまな国籍・宗教の人々が眠る外国人墓地にある。
●作家・日本ペンクラブ常務理事
 新井 満
黙さず語らん<14>
古典を現代に生かす
●作家 藤本義一
高橋史朗の第三の教育論<35>
今なぜ「親学」なのかII
親教育に乗り出す各国の動き
●明星大学教授・埼玉県教育委員会委員長職務代理者 高橋史朗
【グラビア】
日に晒され風に吹かれ<121> ●写真家 浅井愼平
そのまんまの世界 ●画家・書家 佐藤勝彦
一眼の彼方<3>裏コレクター ●フォト・ジャーナリスト 井上和博
【歴史エッセイ】
日本の名山 その歴史と文化<70>
劔岳
●作家・文芸評論家 高橋千劔破
人生の指針を残した偉人たち<11>
犬養毅  人間の成長を促す言葉をかけよう
●明治学院大学教授 武光誠
【好評連載】
未知なる輝き<16>
全身料理人
●フランス料理シェフ 杉本敬三
長田百合子の体当たり奮戦記<35>
人騒がせな大金持ち
●エデュケイションライター
 長田百合子
リーダーの要諦<46>
『貞観政要』を読む
●中国思想史家 疋田啓佑
にっぽん人情小噺<3>
「あらあらかしこ」
●落語家 三遊亭鳳豊
●表紙撮影・丸谷美津子




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